面接に意味がない理由 | 採用面談で人を見抜けると思ってないよね?

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採用面接のポイントを考えると、次の結論に行きつきます。

面接では人は見抜けない。

人を見抜けないにもかかわらず面接が実施されるということは、面接官は勘違いをしているということです。

そんな勘違い面接官相手でも、やはり転職希望者は大事な面接では緊張します。

  • 何を聞かれるのか
  • うまく答えられるかな
  • 落とされたら人格を否定されたように感じる

応募者にはこのとおり試されている感が満載です。 

転職でどうしたら面接の突破率を上げられるのか? 

それを考えるために、以下を検討します。

  • 採用面接で見られているのは何か
  • どうしたらよく見られるのか

本記事の最後に、勘違いをしている面接官を逆手にとって面接に突破しやすくなるコツを伝授します。

目次

1 転職の採用面接で人を適切に評価するのはほぼ無理

転職の採用面接を行うのは、採用ポジションに適合するスキルや人格を応募者が備えているか評価するためです。

これはものすごい難しい。本当に難しい。

(1) 採用面接で取れる情報は少なすぎる

面接にかける時間は限られています。1時間の面接を3回やっても、9回やっても、応募者がこれまで働いてきた時間に比べたら、そんなわずかな時間と回数で、仕事に関する情報を面接では引き出せません。

時間もそうですが、ただ口頭で質疑応答をするだけがメインの場です。

一体どれだけの情報量を得ることができるのか。

採用という重大な決定に当たって、基礎となる情報が足りないというのは問題です。

ここにある問題は、わずかな数の行動サンプルにもとづいた人についての判断が、もっと多くの量の証拠と比べてかなり重視されることが許されているということだ。

(リチャード・E・ニスベット『世界で最も美しい問題解決法 ―賢く生きるための行動経済学、正しく判断するための統計学―』(青土社、2018年1月)173ページ)

リチャード・E・ニスベットは、アメリカの心理学者です。上記の本の紹介は以下の通りです。

世界的社会心理学者が、経済学から哲学まで、ありとあらゆるジャンルを横断し、発見した賢い問題解決のための100の方法。日常生活やビジネスの現場における意思決定をスマートにし、最高の結果を導くための新しい教科書。

面接は、「わずかな数の行動サンプル」しかとれない、という点は大きな問題です。

そして困ったことに、そのわずかなサンプルを過剰に重視してしまうという問題もあります(面接の過剰重視は後述します)。 

(2) 普段の相手の人の行動こそが大事だが知ることはできない

面接の場では「この人はどういう人なのか」という非常に抽象的で捉えどころのないポイントを面接官は探り出そうとします。

どんな人なのかを面接の場の発言だけで探り出すのは困難です。

面接官は、自分なら困難な仕事をできると思い込むのですが、これが誤りのもとです。 

現在の面接(注 「15~20分程度で、……総合的な印象を形成するために、できるだけいろいろなことを話題にするよう指示されていた」)が失敗した原因の少なくとも一部は、面接官が自分に最も興味のある話題を取り上げて、相手の内面生活を知ろうとする点にある

(ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー (上)』(早川書房、2012年11月)333ページ)

ダニエル・カーネマンは、心理学者で初めてノーベル経済学賞を受賞した行動経済学の大家です。

面接という異常な場で「あなたはどんな人ですか?」などということを質問しても大したことは得られないということです。

それよりも、「できるだけ通常の環境における相手の生活について情報を集めるべき」とカーネマンは説明しています。

それよりも、限られた時間を有効に使って、できるだけ通常の環境における相手の生活について情報を集めるべきである。

(ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー (上)』(早川書房、2012年11月)333ページ)

これについては、後記2で説明します。

(3) 面接官は少しの事柄にしか注目できず重要なことも無視してしまう

面接で得られる情報は少ないですが、面接官は触れる情報のうちのさらに少ない部分しか認識できません。

  • ある人の全情報が100とする。
  • 面接で得られる情報は1。
  • そのうち面接官が認識する情報は0.1。

イメージ的にはこのような感じです。

応募者の顔がすごい日焼けしていればそれが印象に残る。

ネクタイの色まではよく覚えていない。

面接では、顔の日焼け具合もネクタイの色も当然面接官は見てはいます。

でも、集中度合いが異なるわけです。

人は、ある特定の事象に過度に注意を集中し、その一方で同時に起こりがちな他の事象に対しては注意を払わないという傾向があります。

これを「焦点化(focalism)」といいます(マックス・H. ベイザーマン=ドン・A. ムーア『行動意思決定論―バイアスの罠』(白桃書房、2011年7月)80ページ)。

これによって、人は自分のひいきのスポーツのチームの勝敗の確率を過大に見積もるのだそうです。

「今年の阪神は強い!優勝する確率は少なくても90%だな!」

同じように、人は判断を下すときは利用可能な情報の一部しか使用しません。

全部の情報を使うわけではないのです。一部しか使わない。

そして、その使う情報を重視しすぎます。

他方で注意していない情報は軽視します。

この傾向を「焦点化の錯覚(focusing illusion)」という(同上)。

この焦点化の錯覚についての歴史的な実例。

1986年にアメリカのスペースシャトルであるチャレンジャー号が爆発する事故が起きました。

この事故発生前には焦点化の錯覚が起きていました。すなわち、一部の「これ重要!」と思う事実だけに着目し、それ以外の事実は捨象されていたのです。

チャレンジャー号の爆発は、打ち上げ当日の気温が低く、低温によって「Oリング」という部品が劣化したことが原因で発生しました。

打ち上げ前の検証ではOリングに不具合が生じていた過去7回の打上げの記録を調べたところ、その7回の打上げにはOリングと低温との関係は見当たらなかったことから、打上げは決定されてしまいました。

しかし、Oリングの不具合が起きなかった他の17回の打上げの記録を調べていれば、実はOリングの不具合と低温との関係は見て取れたのだそうです(同上)。

「Oリングの不具合情報は、過去のOリングの不具合が起きた事例の中にだけ手掛かりがある」と考えたことから、本当に重要な情報が含まれた過去の記録が見過ごされてしまいました。

面接ではこの焦点化の錯覚が発動します。

面接官が「これは重要!」と考えた事柄だけに焦点があてられるのです。

面接官も人である以上この焦点化の錯覚からは逃れられません。

面接に臨めば、必ず、無意識的に応募者についての情報を取捨選択し、軽重をつけて評価しています。

誰しも必ずやっています。

当然話す内容が重視されるはずですが、まずは第一印象にどうしたって焦点が当たります。

それゆえ、転職面接は第一印象で決まる、という気概で臨まねばなりません。

(4) 人の採否を決定できる力を持つ面接官の人の見る目は歪んでいる

「採用担当者」という採否に関与できる力を持った時点で、その人の応募者の見方は歪みます。

その人の持つパワーが見方を歪めるのです。

採用面接官や管理職など何らかのパワーを持つ人が、志願者を選んだり報酬を決めたりするときに、偏った情報によって動かされやすいことも、研究によって確かめられています。

(ハイディ・グラント・ハルヴァーソン『だれもわかってくれない 傷つかないための心理学 (ハヤカワ文庫NF)』(早川書房、2020年2月)147ページ)

では採用担当者はどう歪んだ見方をしているのでしょうか。

簡単に言うと、応募者をざっくり「こういう人だ」というステレオタイプに頼った見るようになります。

パワーを持つ人は、相手が自分より弱い立場だと見ると、相手に関して細かい微妙な部分まで読み取る努力はしなくていいと思うようです。
その結果、「フェーズ1」の思い込みを持つ傾向が強まります。ふつうの人でもパワーを持つと、ステレオタイプ的な判断をしやすくなることが、多くの研究によって明快に示されています。

(ハルヴァーソン・同上) 

この思い込みは、とても強力です。

面接官が「偏見にとらわれずに、きちんと応募者を評価するぞ!」と思っていても、「評価する」という上の立場にある以上、応募者に対してパワーを行使できる地位におり、その時点で見方は歪んでいるのです。

彼らは特に、対象となる人にネガティブなステレオタイプを当てはめる傾向があります(女性は感情的になりやすい、数学に弱いなど)。それでも、本人は自分の判断が偏見に影響されているなどとはまったく思っていないケースがほとんどです。女性の面接官やマネジャーでさえ、無意識に他の女性をステレオタイプで判断します。過去20年間の社会心理学研究が明らかにしてきた、興味深いというより少々怖い事実は、まったく誤りだと確信しているステレオタイプにさえ、人は左右されてしまうということです。

(ハルヴァーソン・同上)

採用面接は、採用面接官にパワーを与えている時点で人の心理上偏見のない公正な評価を難しくしているのです。

採用者はこうした人の心理を知るべきですし、応募者は採用者が歪んだ見方をしているのを利用して自分に有利になるようにすべきです。

2 人をより適切に評価できるものは面接の外にある

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物理学者の方法や哲学を本当に理解するためには、「彼らの言うことを聞いてはいけない。彼らの行動に注意を向けるべきだ」

ーアルバート・アインシュタイン

(ウォルター・アイザックソン『アインシュタイン その生涯と宇宙 下』(武田ランダムハウスジャパン、2011年)130ページ)

人のことをよく表すのは、面談において何をしゃべったかよりも、過去の特定の場面でどのような行動をしたかです。

転職面接であれば、過去の仕事ぶりが何よりも重要です。

過去の仕事ぶりは、転職後にもどのような仕事をしてくれるかの予測する基礎材料として面接時の発言より優れています。 

将来の行動を最も的確に予測するものは、過去の行動である。過去よりもさらにうまくできることはめったにない。将来に正直であるかどうかは、過去に正直であったかどうかによって最も的確に予測されるのであり、こちらの目をじっと見ているとか、最近、改宗したと言っているかどうかによってではない。編集者としての能力は、それまでの編集者としての実績によって、あるいは少なくともライターとしての能力によって最も的確に予測される

(ニスベット・52ページ)

それゆえ、ニスベットは以下のように注意せよといいます。

できる限り、人の話に耳を貸しすぎず、人の行動の成果を見よ。

行動は言葉よりもはっきりと語る。行動は、言葉による返答よりも、人の態度や性格を理解するための優れた手引きとなる

(ニスベット・294,297ページ)

このような心理学者の意見を実際に採用で活用している世界的ビジネスマンのコメントを紹介します。

ウォーレン・バフェットの右腕、チャーリー・マンガーとバフェットのコメントです

マンガーは、多くのことは「紙の上の記録」から読み取れると主張した。何年間にもわたる人々がどのように行動したかという記録文書には、個人のインタビューよりもはるかに予測力がある。そういうわけで彼らはMBA(経営学修士)の新卒者を雇わないのだ、とバフェットは付け加えた。現場での業績に関する記録がないからだ。

(ダニエル・ペコー=コーリー・レン『バフェットとマンガーによる株主総会実況中継 バークシャー・ハサウェイから投資に必要な知恵のすべてを学んだ』(パンローリング、2020年6月)89ページ)

バフェットとマンガーは、時価総額世界10位に入る大企業群のバークシャー・ハサウェイの会長と副会長です。投資・ビジネスの分野の大ベテラン、スーパーエキスパートです。その彼らが上記のとおり採用について語っています。

別の有名外資系企業の例を紹介します。

プロクター&ギャンブル(P&G)です。私の実体験です。私は、P&Gの海外拠点の求人に応募したことがあります。

その際に、英文レジュメだけでなく、特別な書面を作成して提出せよと言われました。

その書面はこのようなものです。

  • こんな場面であなたは何をしたか教えてください。
  • その場面は具体的にはどのようなものでしたか。
  • 具体的にあなたは何をしましたか。
  • あなたがそれをした理由は何ですか。
  • あなたがそれをした結果どうなりましたか。

3~5個のお題が与えられ、それぞれについて上記を英語で書かなければなりませんでした。

このライティングサンプルは、まさに過去の応募者の行動を知ろうとするものでしょう。

このような人の行動に関する質問は、アマゾンも取り入れており、ウェブサイトで詳細に説明されています。

行動に基づく面接

面接官には、行動に基づいた質問をするということが根付いています。Leadership Principlesを面接のガイドにしながら、過去に直面した状況やチャレンジについて、またそれをどのように解決したかについてお伺いします。面接プロセスでは、(「マンハッタンにはどのくらいの数の屋家があるか?」など)難しい質問を致しません。私たちはこのようなアプローチ方法を検証した上で、Amazonで候補者の成功を見込むのであれば、このような質問は当てにならないと分かっています。

こちらに、行動に基づく質問例を挙げています: 

  • 過去に問題に直面し、数多くのソリューションを見い出した経験について教えてください。どのような問題で、どのように行動方針を決めましたか? その際にとった行動により、どのような成果が現れましたか?
  • どのようなときにリスクを負ったり、過ちを犯したり、失敗したか、教えてください。 どのように扱い、またその経験からどのように成長しましたか?
  • プロジェクトでリーダーとして活動したときの事を教えてください。
  • 過去に、同じグループのメンバーのモチベーションを上げたり、特定のプロジェクトで共同作業を推進したりしなければならないときには、あなたはどのようにしましたか?
  • どのようにデータを使い、戦略を立てましたか 

amazon.jobs

アマゾンは、P&Gと違い、面接で上記のような質問をするから十分に準備をしておいてくださいね!とウェブサイト上の採用のページで丁寧に解説しています。

P&Gもアマゾンも、応募者の過去の行動を知りたいと考えているのです。

応募者として、このような情報取得に気をつけるのであれば、当然ながら現職での働きぶりに気をつけるべきです。 

バックグラウンドチェックが実施されるかもしれないことにも注意。

リファレンスチェック・バックグラウンドチェックとは

3 面接官は気分・感情で決めているが本人は気づいていない

採用面接では、採用者は「慎重に検討した結果」選んでいるというでしょう。

多くの場合、本人がそう思い込んでいるだけであり、実際は無意識的に感情や気分でかなり決められています。

人間の判断の多くは、高次の論理思考が始まる前に、感情的、情緒的な評価によって喚起される(Kahneman, 2003)。

(マックス・H. ベイザーマン=ドン・A. ムーア『行動意思決定論―バイアスの罠』(白桃書房、2011年7月)15ページ)

人の「慎重な判断」は、感情面での判断ではなく、論理的な判断によるものです。

ところが、論理的な判断は、心理的負担がかかるのでなかなか発動しません。

その結果、人は怠惰な判断の方を好むので、論理的な判断モードにたどり着くことなく感情や気分による判断で決めてしまっているのです。

「もうこれでいいや」ということです。

そして、そのようないい加減な判断過程をたどっていることに本人は気づきません。

感情による評価はしばしば無意識でおこなわれるにもかかわらず、Slovic, Finucane, Peters, & MacGregor (2002)が見出した証拠によれば、人は徹底的な分析や論理思考よりも感情による評価を自分の意思決定の根拠にしている。

(同上)

気づかないまま、いい加減な意思決定をしているわけです。

本人は、「よく考えた」と胸を張っているが、実際はよく考えていない、ということがよく起きます。

採用ではこれが頻発します。

なぜか?

応募者のスキルのチェックを面談でするのはほぼ無理だからです。

そうすると、採用者は「なんとなく決める」ことによって判断過程を省略するのです。

企業等の採用選考では、志願者の能力とは無関係に、採用担当者の感情に影響する広範囲な諸要因が結果的にその人の評価にも影響を及ぼす。たとえば、その志願者が以前の志願者と比較してどうであるか、選考時に採用担当者がどんな気分でいるか、採用担当者が最近離婚した相手をその志願者が思い出させるかどうかなどである。人の感情に変化をもたらすような環境要因は意思決定にも影響を及ぼす。天気のいい日には株価が上昇することが明らかにされているが、それはおそらく、好天によって人が上機嫌になったり楽観的になったりするためであると考えられる。熟慮の末の意思決定の代わりに感情で意思決定することで好ましい方向に導かれることもあるが、逆に最適な選択が妨げられる可能性もある。

(マックス・H. ベイザーマン=ドン・A. ムーア『行動意思決定論―バイアスの罠』(白桃書房、2011年7月)15ページ)

それゆえ、面接官の気分を良くするために質問を効果的に使うべきであると「転職面接突破には質問が超有効って知ってた?」で説明しています。

また、外見・容貌が与える印象による影響力は大きいため「転職面接では見た目を整えよ【知らないと損する突破のコツ】」のとおり、面接に臨むにあたっては自分の外見を整えるのが重要です。

採用という会社にとって重大イベントを感情・気分で決めるのはあまり賢いこととは言えません。

しかし、当の人事採用担当者達は自分はいい仕事をしていると自信にあふれています。

4 面接で人を見抜けるという思い込みは強力

人生の99%は思い込み―――支配された人生から脱却するための心理学

人は思い込みで生きています。

面接官も同じであり、この思い込みは強力です。

どのような思い込みを抱えているかを説明します。

(1) 人は自信過剰・見たものがすべて

人の本来的性質として、人は自信過剰です。

人は「自分の知っていることを強調し、知らないことを無視する。その結果、自分の意見に自信過剰になりやすい」のです(ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー (下)』(早川書房、2012年11月)45ページ)。

世の中には自分のわからない情報が溢れていて、面接相手のことを限られた面談時間の中で知るのは難しいのに、なぜそんなに自信満々になれるのか。

それは、臭い物には蓋をして、都合の悪い物から目を背けて都合のいい事実だけを取り入れて総合判断した気になるからです。

人は「見たものがすべて」なのです。 

そもそも私たちは「見たものがすべて」と考えやすく、頭を使うことを面倒くさがる傾向がある。このため、問題が持ち上がるたびに場当たり的に決定を下すというやり方をしがちだ。たとえ問題をまとめて総合的に判断するよう指示されていても、である。私たちは、自分の選考をつねに首尾一貫したものにしたいとも思っているし、そのための知的資源も持ち合わせていない。私たちの選考は、合理的経済主体モデルで想定されているような美しい整合性にはほど遠いのである。

(ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー (下)』(早川書房、2012年11月)154ページ)

(2) すぐに他人にレッテルを貼る。「この人はこういう人だ」

採用面接は、直感は当てにならない場面です。面談結果から論理的・分析的に応募者を評価することは極めて難しい。

面接官は、面談の場という「見たものがすべて」と思い込んで、直感に頼って判断を下しにかかります。

その直感の結果もたらされるのは、「ああ、この人はこうなんだ」という安易なレッテル貼りです。

面談という限られた場、非日常的な場面での行動や、応募者の置かれた状況を理解できなければ、面接官は応募者の発言の真意が理解できません。発言の背景事情が重要なのです。

しかし、面接官はあまりそこまで頭がまわらず、応募者の発言したことを鵜呑みにしがちです。 

自分自身が下した判断の理由や、自分自身の取った行動の原因を分析しようとするときにさえ、状況を軽んじることと、内面の要因を過大視することの両方が行われる。しかし、他人の取った行動の原因を理解しようとしているときに、問題はさらに大きくなる。自分が判断を下したり、何らかの行動を起こせるようにしたいなら、文脈や状況にある多数の側面に注目する必要がある。だが、自分以外の人が置かれている状況を見通すことは、難解か不可能であるかもしれない。だから、他人の行動にとっての状況の重要性を過大評価し、内面の要因を過大評価する傾向がとりわけ強くなるのだ。

文脈や状況の重要性を認識できないことと、その結果、個人の気質の役割を過大評価することは、私たちが犯す誤りのなかで最もよく起こる、必然的な推測の誤りであると私は考える。社会心理学者のリー・ロスは、これを根本的な帰属の誤りと名づけた。

(リチャード・E・ニスベット『世界で最も美しい問題解決法 ―賢く生きるための行動経済学、正しく判断するための統計学―』(青土社、2018年1月)52ページ)

本来であれば、「この人がこのように言うに至った外部的要因は何だろう」と考えて発言を評価すべきところ、それをせずに単に内部要因(好み、性格、能力、心づもり、動機)だけをことさらに過大視して、「この人はこういう人」と結論をくだしてしまうのです。

このような、他人の置かれた外部環境を無視して他人の内面的な気質を過大評価してしまう誤りが「根本的な帰属の誤り」です。

面接では、面接官による根本的な帰属の誤りが発動されてしまうのです。 

根本的な帰属の誤りによって、私たちはつねにトラブルに巻き込まれる。信頼すべきではない人を信頼し、実際には非の打ち所のない良い人を避け、それほど有能でない人を雇う。どれも、人の行動に作用しているかもしれない状況のもつ力を認識できていないことが原因である。その結果、私たちは、将来の行動には、現在の行動から推測されるその人の気質が反映されるものとみなす

(ニスベット・59ページ)

そして、この根本的な帰属の誤りは、前述した自信過剰によって助長されます。

根本的な帰属の誤りは、主として、状況的な要因を無視する傾向のために起こるが、人に短時間だけ接することはその人の行動のわずかなサンプルにしかならないということを正しく認識できていないことによっても助長される。この2つの誤りが、面接の錯覚の背後にある――その錯覚とは、30分一緒にいるあいだの相手の発言やふるまいをもとに、その人がどのような人かを知ることができるという過剰な自信のことだ。

(ニスベット・187ページ)

採用面接は、面接官の「私は人を見る目がある」という勘違いが大いに炸裂する場だということです。

(3) 採用担当者は応募者の個人的能力だけ見てしまう(チームプレーヤーとして見れない)

採用担当者は、「自分には人を見る目がある」と自信を持ち、「有能な人物を採用せねば」と思っています。

このような考えは、会社が採用の際に考慮すべき要素を見落としてしまう原因となります。

採用者は、”個人”にだけ着目して評価しようとしてしまうのです。

最終候補リストに載っている人それぞれの長所を検討するときに、評価を行う人は(選挙の投票者、採用担当者、スポーツのファンなど、いずれの人であっても)候補者が、チームの一員としてではなく、個人としてどのくらいできそうかという点に注目しがちです。

S.マーティン=J.マークス『情報発信者(メッセンジャー)の武器―なぜ、人は引き寄せられるのか』(誠信書房、2022年3月)112ページ

多くの組織では、他人と働くことが想定されています。

そうした、チームプレーヤーとしての能力も本来は見なければいけません。しかし、そうした能力は採用評価の場では評価されにくいです。採用者がそれを評価すべきと気づいていないからです。

最終的に選ばれたリーダーが成功を収めるためには、多くの他者(味方もいれば敵もいます)に助力を請い、彼らと協力していかなければならないという事実は頻繁に無視されます。

同上

採用面接で、面接官が応募者に感銘を受けると「この人いい!」となり、組織内でチームプレーヤーとしての能力の評価を低く見積もってしまいがちです。

実際、評価を行う人はある人物の将来的な成功が本人の才能と能力にのみかかっていると考える罠に囚われることがあります。

同上

このような、他人の能力評価の際に、個人の能力を高く評価してしまう傾向のことは個体成功仮説と言われています(S.マーティン=J.マークス『情報発信者(メッセンジャー)の武器―なぜ、人は引き寄せられるのか』(誠信書房、2022年3月)112ページ)。

プロサッカーのスター選手が、引退後に監督になりやすいのは、この個体成功仮説の一例としてあげられています。

サッカー選手としての個人の能力が高かったから、サッカーチームの監督としての能力も高いだろう、と見積もってしまうということです。

(4) 印象=評価という誤った思い込み

面接官は、自分の認識をコントロールできず、適切な評価に失敗します。

ア 面接官は自分の頭の中の課題を楽な方にすり替える

面接官に与えられた使命は重いです。

簡単に言えば、「優秀な人材を面談で見抜いて適切に評価せよ」です。

「優秀」だとぼやけるので、採用したいと考えている人材の特徴をより多く持った人を見つけ出せ、ということかもしれません。

これは非常に難しいです。

しかし、面接官で「まいったな。私にはできない」と頭を抱えている人を見たことがありません。

なんでみんな面接官はこんな大変な課題を抱えて平気なのでしょうか。

人間にはこれに対処する必殺技があるのです。

難しい問題を簡単な問題に勝手に置き換えるのです。

どう問題を置き換えるのか。

たとえば、ある投資家が「トヨタ自動車の株式を買うべきか」と悩む。

投資判断はとても難しい。

そこで、問題はいつの間にかすり替わります。

「私はトヨタ株を買うべきか」から、「私はトヨタの車が好きか」に変化されるのです。

困難な問題に直面したとき、私たちはしばしばより簡単な問題に答えてすます。しかも問題を置き換えたことに、たいていは気づいていない。

(ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー (上)』(早川書房、2012年11月)23ページ) 

上記であげたような問題のすり替えのうち、「熟考や論理的思考をほとんど行わずに、好きか嫌いかだけに基づいて判断や決断を下すこと」を感情ヒューリスティックといいます(カーネマン・同上)。

「ヒューリスティック」とは、「困難な質問に対して、適切ではあるが往々にして不完全な答を見つけるための単純な手続き」を意味し、「見つけた!」を意味するギリシャ語のユーレカを語源に持つ言葉です(『ファスト&スロー上』145ページ)

面接官は、採用面接で自分がするべき課題を自分勝手に楽な方向にすり替えて「好き嫌い」や「感じがいいか悪いか」を重視するようになるのです。

私がある会社に転職で入社してから、面接官で一番偉い人に聞きました。

「どういう人を採用したのですか?」と。

その答えは「一緒に働きたいと思える人かどうか」でした。

「いま考えるべきなのは、この応募者が仕事で能力を発揮できるか、ということだ。しかしわれわれは、彼女が面接で好印象を与えたか、という質問に答えようとしているように見える。勝手に置き換えてはいけない」

(『ファスト&スロー 上』153ページ)

イ ハロー効果が強すぎて払拭できない

ハロー効果(Halo Effect)とは、「ある人について、とても良い(あるいはとても悪い)何かを知っていることが、その人についてのあらゆる種類の判断を色づけるという効果」です(リチャード・E・ニスベット『世界で最も美しい問題解決法 ―賢く生きるための行動経済学、正しく判断するための統計学―』(青土社、2018年1月)78ページ)。

ある人の何か一部が「いいな!」と思ったら、その人の他の言動も高く評価してしまうことをいいます。

たとえばこんなツイート。

https://twitter.com/koheinishizaki/status/1578322550752686081?s=20&t=yrN9r2ZJqEam9ElA8y1rDg

このツイートは、どこかの会社の社長らしき人が、自社社員の「店選びのセンスがよかった」と感心し、その社員の「仕事ができる」と評しています。もしくは、「仕事ができる」と思っている社員に店選びを任せたら「センスがよかった」のかもしれません。

店選びのセンスは人の好みの問題ですし、「仕事ができる」も主観が入ります。この2つがどうして関係するのでしょうか。

「店選びのセンス」と「仕事の能力」に関連性はないはずです。

超絶「仕事ができる」はずのウォーレン・バフェットが選ぶレストランは、マクドナルドや地元のローカルのステーキレストランです。

▼バフェットが好きなステーキ屋

Gorat’s Steak House | Omaha Nebraska Restaurant | Home (goratsomaha.com)

このレストランを誰もがセンスがいいとは言わないと思います。

「店選びのセンス」と「仕事の能力」に関連がないという具体例は世の中に死ぬほど溢れているはずです。店選びのセンスはあるけど仕事はできない人、仕事はできないけど店選びのセンスはある人。

つまり、店選びのセンスと仕事の能力の関連性は簡単に疑問符が付けられてしまう怪しげなものと考えるのがまっとうです。

関連性があるとすればそれは恣意的なこじつけです。

そんなこじつけを当たり前と思い込んで自分のツイートとして公言できることをなんとも思わなくなるくらいハロー効果は超強力です。

誰しも自分の考えがハロー効果の影響を受けるのは逃れられません。しかし、自分の思い込みが強い人や自分の一存で物事を決められる人の方がその影響をより強く受けるのかもしれません。

「この人は店選仕事もできるに違いない」

採用面接は、その強力なハロー効果が発言する典型的な場です。

企業の採用面接試験もハロー効果の代表的な例だ。就職希望者について最初に知る最も重要で具体的な情報はなんだろうか。出身校や学校の成績や賞罰などだろう。これらの情報―重要かつ具体的で見たところ客観的な情報―を採用担当者が知っていると、就職希望者の態度や一般的な質問への回答など、明確に判断しにくい点への評価が変わることが多い。一流大学で優秀な成績をおさめた候補者だったらどうだろう?質問への答えも立派で、仕事をしっかりこなしそうな、すぐれた人物に思えるだろう。

(フィル・ローゼンツワイグ『なぜビジネス書は間違うのか』(日経BP社、2008年5月)93ページ)

上記の例は、学業の成績等の及ぼす影響をあげていますが、実際は人の及ぼす印象の良しあしがハロー効果を起こし、「面接の印象がいい人」であるから、「仕事でも周りの人とうまくできるだろう」などと関係ない事柄に影響を及ぼしてしまいます。

面接で良さそうな人だからといって、いざ働き始めてから同僚とうまくコミュニケーションできるとは限りません。乏しい因果関係しかないのです。

(5) まとめ:採用面接とは人の心理からするとこういうもの

採用面接の実際はどのようなものかをまとめます。

ニスベットは、採用面接で取れる情報サンプルはわずかであるが、それについて偏った認識を持ってしまうと結論づけています。

本来、面接は、その人について存在する情報すべてと比べて、ごく少量の断片的で、おそらくはかなり偏ったサンプルであるととらえるべきなのだ。

(ニスベット175ページ)

ダニエル・カーネマンは以下のように採用面接を断じています。

面接を実施して面接官が最終決定を下すやり方は、選抜の精度を下げる可能性が高いということである。というのも面接官は自分の直感に過剰な自信を持ち、印象を過大に重視してその他の情報を不当に軽視し、その結果として予測の妥当性を押し下げるからだ。

(ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー (上)』(早川書房、2012年11月)153ページ)326ページ)

要するに、面接では採用のために必要な情報が取れないのに、面接官はその問題を無視し、別の問題に置き換えて、自分の受けた印象を過大視して根拠薄弱な直感で評価してしまうのです。

5 思い込みを利用して面接に突破するコツ

転職時、採用面接の場では人を適切に評価できません。面接の重要度はもっと下げられるのが適切といえます。

しかし、実際には面接は重視されます。

なんでそんな重視されるかといえば、採用者が「面談で人を見抜ける」と勘違いしているからです。

応募者としてはどうするか?

面接に突破したいのであれば、その勘違いを利用するしかありません。

その人の勘違い心理を突くための採用面接のアピール方法を説く記事が転職面接に受かるアピール方法 | ハーバード流面接突破術 です。

面接では、面接官をいい気分にさせましょう。

面接官の気分が良くなれば、面接官にとって応募者は理想的な応募者に見え、採用すべき人材に思えてきて、評価は必然的に上がります。

このような「採用面接とは」という考察をもとにした、面接対策のための心理学的知識は別記事にまとめていますので、参考にしていただけたら転職面接で優位に立つことができるはずです。 

転職面接前に知るべき効果的な心理学の知識では、上述の面接でのアピール方法とは別に、主に面接外の面接までに知るべき知識をまとめています。

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転職先の選び方を最新心理学から考えてみた | 転職キャリアルール へ返信する コメントをキャンセル

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