転職面接の合格率を高めるためには面接で何を話したらいいのか?
【転職面接で応募者が面接官に伝えるべきこと・要約】
(i) 人間的な温かみを示す
- 相手に関心を払う
- 共感を示す
- 自分が先に相手を信用する
(ii) 有能であることを示す
- 意志の力があることを示す
- 自信過剰に陥らずに謙虚さを示す
- 潜在的な可能性を強調する
(iii) 温かみと有能さは相反する。道徳性を伝える
転職面接突破法に関する本は、多くは「私の面接自慢」や「私が思うこと」という思い込みベースです。
こうした人の思い込みに依拠した方法ではなく、しっかりとした根拠のある頼りがいのある理屈にすがりたい。
そんな戦略家のあなたのための「心理学的に正しい転職面接突破法」を紹介します。
社会心理学者の著作をベースにした記事です。
「ハーバード流」と銘打ったのは、ハーバード大学で教えられているからではなく、ハーバード・ビジネス・レビュー掲載の論文やハーバード大学の教授の実験等が根拠に含まれているからです。
これを読むことで、面接に臨む際の正しい態度、武器が手に入ります。
1 転職面接で狙うべきは面接官に気に入ってもらうこと
転職面接で合格し、内定をもらうにはどうしたらよいのか?
ゴールから逆算します。
内定は、採用企業内の権限ある人の意思決定によって決まります。
したがって、「権限のある人に、『採用する』と決めてもらう」がゴールです。
権限のある人に採用を決めてもらうにはどうしたらいいのか?
それは、面接官に良い印象を与えることに尽きる。
面接官に権限があればそれはもうストレートです。面接で目の前にいる面接官が採用するか否かを決めるのです。
面接官が最終権限を持っていない場合でも、面接官が果たす役割は大きいです。面接官が、面接をしていない最終権限者に対して「この人を採りたいです」といいます。
実質的に面接官が決めています。最終権限者は確認するだけです。
最終権限者が採用にあれこれ言いたいなら自ら面接に出るでしょう。
2 転職面接官に気に入ってもらうには良い印象を与える
面接官にどう思わせればいいかというと、気に入ってもらえばいいのです。
そのためには良い印象を与えればいい。
人が面接官になって、応募者を面接して、その人の採否を決める。この広く行われている採用方式には欠陥があります。
欠陥とは、人の直感、思い込みに頼りすぎていることです。
応募者は、この面接に存在する構造的な「面接の欠陥」を利用すべきです。
採用する側の面接官は、自分が人を見抜けると過信しています。
その過信を利用するのです。
ひとたび良い印象を与えると、面接官の心の中でそれを覆すのが難しくなります。
3 転職面接官に良い印象を与えるに伝えるべき2つのメッセージ
面接官に良い印象を与えるにはどうしたらいいのか?
見た目を良くする、といったテクニックもありますが、本記事では「どのようなメッセージを受けとめさせるか」といった内容に関することを説明します。
伝えるべきメッセージは以下2つです。
- 私には人間的な温かみがある。
- 私には能力がある。
ハーバード大学の心理学者で、この研究の中心メンバーであるエイミー・カディは、人が肯定的に見られるか、否定的に見られるかは、その約90パーセントが「温かみ」と「能力」にかかっていると言っています(*)。ですから相手に「価値ある味方」と見てもらうためには、「温かみ」と「能力」のイメージを発信できるようになることが大事です。
* Connect, Then Lead,” Harvard Business Review 91, no. 7 (2013): 54-61
(ハイディ・グラント・ハルヴァーソン『だれもわかってくれない: 傷つかないための心理学 (ハヤカワ文庫NF)』(早川書房、2020年2月))
この『だれもわかってくれない: 傷つかないための心理学 (ハヤカワ文庫NF)』は、本記事の情報源の中核をなす書籍です。
著者のハイディ・グラント・ハルヴァーソンは、コロンビア大学ビジネススクールのモチベーション・サイエンスセンター副所長で、コロンビア大学で社会心理学の博士号を取得しており、モチベーションと目標達成分野の第一人者として知られています。ハーバード・ビジネス・レビューにも論文を寄稿しており、ハーバード流と銘打つにふさわしい研究者です。
そんなハルヴァーソンが相手に信頼されるための2つの要素として挙げたのが上記2つの「温かみ」と「能力」です。
以下では、それらについて面接でどんなことをしたら面接官にわかってもらえるのかを見ていきます。
4 人間的な温かみのあることを示す①
人間的な温かみとは、以下のようなものです。
- 親しみやすさ
- 誠実さ
- 思いやり
これらは「その人が相手に対してよい意図を持っていることの表れととらえられます」(ハルヴァーソン・同上107ページ)。
「この人は温かみのある人だな」と面接官に思ってもらうのは、面接の1つの目標になります。
では、面接でどう言えばいいのか?
これはどうでしょう。
面接官:あなたはどんな人ですか?
応募者:私は温かみがある人です。
こんな直球で言っても効果は薄いです。
それよりも温かみをもっと間接的に伝える必要があります。
(ハイディ・グラント・ハルヴァーソン『だれもわかってくれない: 傷つかないための心理学 (ハヤカワ文庫NF)』(早川書房、2020年2月)108ページ)
直接言わず、間接的に伝えて、面接官に自発的に「この応募者は温かみのある人だ」と思わせる方が遥かに効果的。
人間的な温かみを直接的にではなく間接的に伝えるためのポイントは以下3つです。
- 相手に関心を払う
- 共感を示す
- 自分が先に相手を信用する
以下それぞれについて見ていきましょう。
(1) 相手に関心を払う
転職面接で、自分をアピールするために「私は何を話すべきか」と自分に集中するのは得策ではありません。
「私は温かみのある人間ですよ!」と一生懸命伝えようとするのは賢い作戦ではないということです。
温かみのある人間であることを示すために、「私はあなたに関心がありますよ!」ということを示しましょう。
そのためにするべきなのは。
- 目を合わせること
- うなずくこと
- 微笑むこと
これらが「温かみ」を表現する三大要素です。
ですが、多くの人はたいてい自分がこの3つをしていないことに気がついていません。
つまり、転職面接ではライバルは重要なこれらをしていないことが多い。
よって、転職面接で上記3つを実践すれば他の応募者ライバルに差を付けられます。
具体的にはこうしましょう。
- 目を合わせる:面接では、自分が話しているときも、相手の話を聞いているときも、相手の目を見ましょう。日本人だとずっと見てるのは辛いので、直視はしなくていいと思います。
- うなずく:相手の話を理解していることを示すために、時々うなずきましょう。
- 微笑む:面接の最中に、意図的に不自然にならないよう笑いましょう。特に大事なのは、相手が笑ったときに、一緒ににこっと笑うことです。
これらの3要素とは別というか、より根本的なことですが、面接官の話をよく聞きましょう。
何より大事なのは、相手の言うことをよく注意して聞くこと。人は誰でも話を聞いてもらいたいと思っています。相手の望むとおりにしてあげられなくても、助けになれなくても、話をよく聞いてあげることが大事なのです。
(ハイディ・グラント・ハルヴァーソン『だれもわかってくれない: 傷つかないための心理学 (ハヤカワ文庫NF)』(早川書房、2020年2月)109ページ)
面接官が話していたら、絶対に遮ってはいけません。
よく聞いて、「よく聞いていますよ。私はあなたに関心があるんですよ」というメッセージを発信しましょう。
面接で成功したいと思うなら、関心がある感を装うべきです。それでも十分に効果があります。
「私はあなたに関心があります」と示すために上記を実践するにはどうしたらいいか?
これは簡単です。
質問をすればいいのです。
質問をうまくすることは面接では極めて重要です。
(2) 共感を示す
相手に共感していることを示すためにするべき具体的な方法として、ハルヴァーソンは以下2つをあげています。
- 相手の立場を想像する(視点取得)
- 特に必要のない謝罪(superfluous apology)
具体的に何をすればよいのでしょうか。
ア 相手の立場を想像する
面接では、相手(会社ではなく面接官個人)の立場に自分を置いて、相手がどのように考えているかを想像します。
人が他人の立場を想像するのはかなり難しいのですが、「この「視点取得」というスキルは繰り返し行なううちに、あまり考えなくても簡単にできるようにな」ります。
普段から相手がどう考えているか想像する練習をしておきましょう。
また、面接官と自分との間の共通点を探しましょう。
- 好きなこと
- 嫌いなこと
- 過去の経験
そして、共通点を見つけて 「……という気持ちだったと思います」というような言い方を使えば、共感を直接伝えることができます。
イ 特に必要のない謝罪(superfluous apology)
もう一つ共感を示すための有効な技。
特に効果的な方法でしかも見逃されがちなのが、心理学者が「特に必要ではない謝罪(superfluous apology)」と呼ぶものです。これは謝罪の言葉を、自分の非を認めるためでなく、相手の苦労に対する遺憾の念を表すために述べます。つまり、まったく自分のせいでないことに対して謝るわけです。
(ハイディ・グラント・ハルヴァーソン『だれもわかってくれない: 傷つかないための心理学 (ハヤカワ文庫NF)』(早川書房、2020年2月)109ページ)
自分が悪くないことに対して謝罪すると、共感を得るのに効果的だということです。
相手が何か苦労をしたことについて、その原因が自分にはないのに謝罪する文言を伝えることで、「あなたの苦労はよくわかっていますよ」と伝えるということです。
「労力」は人の心理でとても重要です。
(人は)労力のかかるものはそうでないものに比べて価値が高い、と暗に決めつける。
(ダン・アリエリー&ジェフ・クライスラー『アリエリー教授の「行動経済学」入門-お金篇-』(早川書房、2018年)186ページ)
相手が苦労していることについては、相手はそこに価値を見出しているのです。
相手の苦労をたたえ、あなたの労力は評価されるべきものです、と認めてあげましょう。
そのために、自分はわるくないのに、「すみません」と言うのがよいということです。
このテクニックの具体例としては、英語の”I’m sorry.”が紹介されています。
英語の”I’m sorry”は、相手が気の毒な目に遭った場合にも使われ、日本語の「ごめんなさい」「すみません」とは違った文脈で使われるため、日本で直ちには使えません。
このテクニックを使うとしたらどんな場面があるか?
自分ではなくて、第三者である転職エージェントが相手に迷惑をかけた場合に使えます。
転職エージェントが面接官に何か伝達するのを忘れていた場合などです。
その際に、「すみません。それはご迷惑をおかけいたしました」と面接官に伝えればいいのです。
悪いのは転職エージェントであって、自分は悪くないのは明白な場面で謝るということです。
「すみません。お忙しいところ面接官様にお手数をおかけすることになってしまいました」と、相手が苦労したということを強調するのです。
こういう謝罪は、あなたが相手の視点に立って、その経験をわがことのように思っていたり、違う展開であればよかったのにと思っていたりすることを表すもので、単純ながら大きな効果があります。こういう言葉は相手の信頼を明らかに高めます。
(ハイディ・グラント・ハルヴァーソン『だれもわかってくれない: 傷つかないための心理学 (ハヤカワ文庫NF)』(早川書房、2020年2月)111ページ)
謝るということは、自分の非を認めるということです。
それは自分にとってマイナスにならないのでしょうか。
マイナスの面もありますが、プラスの効果がそれを上回るようです。
最近の研究によって、積極的に自分や自分の組織の非を認める人たちは、優れた特質、人間としての尊厳、他者への善意を持っていると見なされることがわかっています。それらはみな信頼関係を強く促進するものばかりです*。ですからどんどん「すみません」と言いましょう。そこから良いことがきっと始まります。
* B.C. Gunía, J. M. Brett, and A. Nandkeolyar, “Trust Me, I’m a Negotiator: Using Cultural Universals to Negotiate Effectively, Globally,” Organizational Dynamics 43 (2014): 27-36.
(ハルヴァーソン・同上112ページ)
謝ることから「良いことがきっと始ま」るのだそうです。
面接ならきっとよい結果が得られるでしょう。
(3) 自分が先に相手を信用する
人間的な温かみがあることを示すためにする方策の3つ目は、自分が先に相手を信用するということです。
これは、人間に備わった互恵主義の考えに基づきます。
過去に何かしてもらったり、物を贈られたりした相手には、同じように何かしてあげたいと当然のように思います。
(ハルヴァーソン・同上112-113ページ)
……この「互恵主義」の原則は、信用に関しても当てはまります。
面接では信頼を得なければなりません。
そのためには、この互恵主義の原則を使うことが効果的です。
この互恵主義の原則は、別の著名な社会心理学者であるロバート・B・チャルディーニも『影響力の武器』の中で「返報性の原則」として紹介しています。
ロバート・B・チャルディーニ『影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか』(誠信書房、2014年7月)
- 私たちの身の回りにあるさまざまな影響力の武器のなかでも最も強力な武器―返報性のルール
- 私たちの心が、余計なお世話をされた場合でも、恩義の感情が生まれるように出来ている
この返報性の原則がどうして有効なのか。
なぜ人は恩を受けたら返そうと思うのか。
理由は2つ挙げられています。
- 理由①:恩義を受けたままにしている状態が不快であるからそれを解消したくなるから(「人間社会のシステムのなかでは、相互扶助がきわめて重要ですから、私たちは恩義を受けたままでいると不快になるように条件づけられているのです」(『影響力の武器』64ページ))
- 理由②:返報性のルールを破る人、すなわち他者の親切を受けるばかりで、それに対してお返しをしようとしない人は、社会集団のメンバーから嫌われるから。人間は社会性を重んじる生物であり、社会集団の中でのけ者にされることはどうしても避けたいと思うのです。
互恵主義原則、返報性の原則は、人間の本質的な社会心理に基づく超重要原則であり、これを使うのは超強力です。
では互恵主義原則を発動させて「恩返ししなきゃ」と相手に思わせるにはどうすればいいのか?
自分から先に「私はあなたを信用しています」と示しましょう。
なぜ先に示すのが効果的かはハルヴァーソンが次のように説明しています。
私たちは先に自分を信用してくれた人を、信用できる相手だと思う傾向があります。競争意識を持ったりせず、オープンで協力的で、自分のことより他の人を優先して考える人を信用するのです。
(ハイディ・グラント・ハルヴァーソン『だれもわかってくれない: 傷つかないための心理学 (ハヤカワ文庫NF)』(早川書房、2020年2月)113ページ)
先に相手を信用するのは、「少々のリスクを伴」うものであるが、「それによって得られるものは、たいていの場合、リスクを冒すだけの値打ちがあ」るとハルヴァーソンは述べています。
また、自己開示を積極的にすることも効果的です。
相手に自分の個人的な経験を打ち明けるのもいいでしょう(ただし適正な範囲で!)。こちらのガードを外すことによって温かみを表現できます。自分が経験した苦労や困難なできごとについて話すのです。自分の弱くて人間味のある面を相手に知ってもらいます。それによって相手があなたにネガティブな印象を持つことはありません。むしろ、「この人も自分と同じなんだ」と思ってくれるでしょう。
(ハルヴァーソン・同上113ページ)
5 能力があることを示す②
「能力」とは以下のようなものです。
- 知性
- スキル
- 優れた仕事ぶり
能力があるとは、「その気になれば自らの意図を実行に移せることを意味します」(ハルヴァーソン・同上107ページ)。
能力があるとどういいのでしょうか。
意図を実行できるスキルや能力を持っている、ということは信用を形づくる大切な要素です。味方というのは、その人に能力があると信じられるときだけ意味があります。
能力のある人は、価値ある味方にも、怖い敵にもなりうるというわけです。一方で能力があまりないと思われた場合には、関心を持たれたとしても、同情や蔑みの対象でしかありません。
(ハイディ・グラント・ハルヴァーソン『だれもわかってくれない: 傷つかないための心理学 (ハヤカワ文庫NF)』(早川書房、2020年2月))
能力があると示すためには、以下のような言動をとるのが効果的です。
- 自分の業績や経験を強調する
- 自信のある態度をとる
- 防衛的にならない
- 相手と目を合わせること
- 話の内容がわかりやすいこと
- 少し早口で話すこと
- ジェスチャーを加えること
- うなずくこと
- 背筋が伸びていること
ハルヴァーソンはこれらだけではなく、より社会心理学者らしい能力の示し方の戦略を示してくれています。
このあとはもう少しありきたりでない戦略で、とても重要なものを紹介しましょう。有能な人間であることを相手に伝えるのに役立ちます。
(ハルヴァーソン・同上115ページ)
自分の能力を相手に示すために重要な戦略はこれらです。
- 意志の力があることを示す
- 自信過剰に陥らずに謙虚さを示す
- 潜在的な可能性を強調する
以下ではこの3つの戦略について説明します。
(1) 意志の力があることを示す
自制心がある人であることを示しましょう。
これは能力があることを示す助けになります。
意志力が弱い、と思われると信用されなくなります。
大きな失点につながります。
困難な状況に陥ったとき、あるいは自分の利益ばかりを優先したくなるような状況になったとき、その人が誘惑に打ち勝って正しい行動をとってくれると思うから、その人を信用するのです。当然ながら、自制心がなくてはそういう行動はとれません。
(ハイディ・グラント・ハルヴァーソン『だれもわかってくれない: 傷つかないための心理学 (ハヤカワ文庫NF)』(早川書房、2020年2月)115-116ページ)
自制心が足りないことを示すような行動を人前でとると信用度が低下することを、研究の結果が示しています。本当はしてはいけないと自分でわかっていること(喫煙、過食、衝動買い、怠慢、遅刻、だらしなさ、感情的になる、すぐに怒る、など)をすると、想像以上に悪い結果につながります。あなたの信用全体にダメージが及ぶからです。
こうした意志力を欠くような行動様式は、自分の習慣のようなもので、少しずつ改善していくべきだとハルヴァーソンは説いています。
転職のことを念頭におくのであれば、将来の転職に備えて今から自分の自制心の欠ける行いを少しずつ改めていくべきです。
(2) 自信過剰に陥らずに謙虚さを示す
有能であることを示すのが、転職面接でも有用な2大メッセージの1つです。
有能であると説明したいがために陥るワナが、自信過剰であると相手に思われることです。
これは避けたい。
心理学者たちは、自信というのはそこまで称賛されるものではないということを知っています。自信過剰はかえって危険です。……また実際の能力が、周囲にアピールしている自信に届かないものだった場合、物笑いの種になりかねません。いつも背伸びして無理なことをやりたがる人を、どうして信用したり、尊敬したりできるでしょう。そもそもそういう人を仲間にしたいとも思いません。ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジの心理学者トマス・チャモロ = プレミュジックは、自信過剰の人間は人から好かれないということを実証しました。口では立派なことを言っていても実践が伴わない人は不愉快ですから、当然のことでしょう。
(ハイディ・グラント・ハルヴァーソン『だれもわかってくれない: 傷つかないための心理学 (ハヤカワ文庫NF)』(早川書房、2020年2月)117ページ)
「自信過剰の人間は人から好かれない」。これは重要です。
「私はこんなすごいことをやり遂げました」と面接で言ってもあまりいい効果はないということです。
面接官は「すごいですね」「優秀ですね」と褒めてくれるかもしれませんが、その褒め言葉は「はいはいわかりました。君はもういいよ。」という意味かもしれません。
ではどうすればいいか?
謙虚さを示しましょう。
現実に基づいた自信を面接官に伝えることができれば、面接官はあなたをより肯定的に見てくれるようになります。
「現実に基づいた自信を面接官に伝える」にはどうしたらいいのか?
これは、曖昧な抽象論を伝えるよりも、具体的な事実を語る方がいいと思います。
①「私は、多種多様な数多くの契約書をチェックしてきましたので、契約書審査能力には自信があります」
②「私は、国内および海外でのM&Aでの株式譲渡契約書、不動産証券化案件におけるローン契約書、PFI事業での市町村とJVとの契約書といった複雑なプロジェクトものの契約書から、マンションやオフィスの賃貸借契約書、守秘義務契約、取引基本契約書、工事請負契約書といった日々の契約書まで月平均30本程度レビューをしてきました」
上記①と②なら、②の方がアピールとしてよいと思います。
①は「多種多様な数多くの」と抽象的にまとめていて、それを根拠に「自信がある」と言っており、面接官には伝わりにくいです。
②はただ自分の見てきた契約を羅列するだけですが、十分あれこれ契約書見てきたということは伝わるはずです。また、「自信があります」といった抽象的なアピールもしていませんが、しなくても十分だと思います。
具体的に語るとともに、自分を持ち上げる抽象的な文言を使わなければ、自信過剰と取られる可能性を減らせます。
チャモロ=プレミュジックによると、自分のスキルや能力に関して謙虚さを表現した場合に、人はその人の能力に関して平均20から30パーセントほど予想を高く積もるそうです。自慢をしすぎると、それと同じだけ人は評価を割り引きます。
(ハイディ・グラント・ハルヴァーソン『だれもわかってくれない: 傷つかないための心理学 (ハヤカワ文庫NF)』(早川書房、2020年2月)117ページ)
うまく謙虚に自分の能力を表現すれば、相手は勝手に「こいつは謙遜してるが、デキる奴だ」と高めに能力を算定してくれるのです。
これは使わない手はありません。
(3) 潜在的な可能性を強調する
人は無性に「潜在性」「ポテンシャル」が大好き。
「人はある無意識のバイアスを持っていて、そのために「すでに何かを成し遂げた人」よりも「潜在的に大きな可能性を持つ人」の方を好ましく感じる」(ハイディ・グラント・ハルヴァーソン『だれもわかってくれない: 傷つかないための心理学』)
— にゃんがー@外資弁護士サラリーマン (@Nyanger_b) 2020年10月9日
人の能力を評価するには、過去の実績を見る方がよく、「ポテンシャル採用」というのは空虚なもので、まさに砂上の楼閣採用といえます。
過去記事でも、「人をより適切に評価できるものは面接の外にある」ということを説明しました。具体的な過去の行動や業績が人の能力判断の基礎にあるということです。
注意しなければならないのは、面接官はこのことを知らない一般人である可能性が高いということです。
つまり、思い込みの強い通常人です。
ちょうどいい具体例がツイッターでありました。↓
他人の内面を評価できると思っているのがよく現れています。たまたま見かけたツイートなので誰かは知りません。
こうした普通人を相手にするのであれば、実績よりも自分の潜在力をアピールする方が効果的です。
「ポテンシャル採用」は、新卒、第二新卒、20代といった若手の採用だけのことと思われるかもしれません。
しかし、ポテンシャルを重視されるのは年齢に関係ないようです。
様々な心理学者の調査では、年齢が要因になることを除外されたにもかかわらず、ポテンシャルを人は評価したとのことです。
つまり、ここでいう「潜在的な可能性・ポテンシャル」とは、「若さ」とは別物だということです。
40代、50代の転職でも、面接官に「この人はこの分野での経験はない。でも、きっとこの人ならうまくやってくれるだろう」と思わせることが大事なのです。
様々な心理実験で、人々は「可能性」を高く評価するということが判明しています。
①採用テスト
実験参加者たちに人材採用で、AとBのどちらの候補者がどのように判断されるかを調べたテストです。(どちらの候補者も学歴その他は同じくらい優れている)
Aさん |
Bさん |
関連する経験はない。 「リーダーシップ潜在能力テスト」で好成績を収めた | 関連する経験が二年ある。 「リーダーシップ能力判定テスト」で好成績を収めた |
上記のテストで、高く評価されたのはどちらでしょうか。
それはAさんでした。
Bさんも好成績で、経験があるのですから、Bさんの方が合理的に見て能力が高いはずなのに、人は可能性を高く見積もってAさんがより良いと判断したのです。
これは、転職面接では捨て置けないテスト結果です。
②仮想のNBA(プロバスケットボール)チームのゼネラルマネージャー(GM)になったら
被験者全員にNBA(全米プロバスケットボール協会)のチームのゼネラルマネジャー役になってもらいます。そして、バスケットボール選手を選んでチームを作ります。
被験者は、AグループとBグループに分けられます。
AグループとBグループでは、2つの異なったデータを示されました。
その後、被験者たちに、「採用した場合、今から6年目のその選手の年俸はどのぐらいだと思いますか」と質問しました。
その結果。
A 潜在的可能性を見せられたグループ (これからの五年間にどれほどのプレーができそうか(潜在的可能性)という予測データを与えられた) |
B 過去の記録を見せられたグループ (過去五年間にその選手が実際にプロとして活動した間の記録) |
年俸525万ドル |
年俸426万ドル |
潜在性に着目したグループの方が、その選手の年俸は高いと判断しました。
③その他の潜在vs実績の比較テスト
以下の比較でも、いずれも「A 潜在」の方が高く評価されています。
A 潜在 |
B 実績 |
賞を取る可能性のある人や作品 |
すでに受賞歴のある芸術家や作品 |
今後名を上げそうな店やシェフ |
すでに高名なレストランやシェフ |
批評家から「彼はいずれ、大物になる可能性があります。一年もたてば、誰もが彼の話をしているかもしれません」と評価されたコメディアン |
批評家から「彼は次なる大物です。いまや誰もが彼の話をしています」と評価されたコメディアン |
人は実績を悪いものと考えるわけではありません。
ではなぜその実績を超える過大な評価を潜在的可能性に与えるのでしょうか。
実績よりも可能性を重視するというのはリスクを含むわけで、そもそも非合理的な判断なのに、なぜ人はそちらを選ぶのでしょう。研究が明らかにしたところによれば、成功の可能性は実際の成功に比べて不確実であるがゆえに、より人の興味を引きやすいということのようです。人間の脳は不確実なものに出会うと、それが何なのか知ろうとして情報に注目し、情報処理をじっくり行なう傾向があります。高い潜在的可能性を持った候補者は、評価が確定している人に比べ、評価する側をより長く深く考えさせる傾向があります。高い可能性を持つ候補者の情報が肯定的なものである限り、この余分に行なわれた情報処理によって(無意識のうちに)、候補者の能力が全体的に肯定的なものとして認識されるわけです。
(ハイディ・グラント・ハルヴァーソン『だれもわかってくれない: 傷つかないための心理学 (ハヤカワ文庫NF)』(早川書房、2020年2月)124ページ)
ここは興味深い記述です。
よくわからないものに興味をいだき、それゆえに注目して、高く評価する。
「ミステリアスな雰囲気」が何か良いもののように捉えられるのと同じ心理のようです。
Twitterでも以下のような、採用担当者が、応募者の将来を勝手に頭の中で評価してるツイートがありました。
この思い込みは、将来性の評価だけでなくハロー効果も働いてますね。
自分が採用面接で良い!と評価した人は、自社に入社してからの将来も明るいと信じる。
面接で良い印象を受けたことと、自社に入社して将来活躍してくれることの因果関係はそれほど強いとは思えません。
強いのは思い込みです。
心理学は面接官も知るべきです。
採用担当者や面接官は自分の心理について無頓着なので、応募者はそこを利用すればいい。
将来性・潜在性をアピールすべきなのです。
ただ、ここで注意点。
潜在的可能性は、「この人はポテンシャルがあるぞ」と思ってもらえる一定の根拠がなければなりません。
ただし、再定的な情報に裏づけられているというところが大事です。別の実験で、候補者の可能性の大きさだけが語られて、それを裏づける証拠が示されなかった場合には、実績のある候補者より評価がかなり低くなりました。
(ハルヴァーソン・同上125ページ)
ツイッター上では、「根拠のない自信が大事」という論調のツイートをたまに見かけますが、転職面接で根拠のない自信を出すのは最悪といえます。
自信過剰で謙虚さがないと思われるうえ、根拠のないポテンシャルをアピールされるとかえって評価が低くなるということです。
自分はすごいのだ!というなら証拠を出さないといけないのです。
ここで潜在性と実績についてのまとめの質問。
転職面接で語るなら、過去の自分の実績と、自分が転職先に入ってからの将来のこと、どちらがよいでしょうか。
自分を売り込むのなら、たとえどれほど素晴らしい経歴を持っていたとしても、過去について語るよりまず未来について話す方が賢明でしょう。相手が進んで耳を傾けるのは、あなたにどういう可能性があるかという点だからです。
(ハルヴァーソン・同上125ページ)
転職面接では、自分の将来性に焦点を当てましょう。
自分に実績があるなら「こんなことをやってきました」と説明するだけで終わらせてはダメです。
「こんなことをやってきました。そのため、御社に入社したらこんなことができます」と、過去の出来事で終わらせず、将来のことを語る方が効果的です。
給料交渉においても、自分の過去の実績をアピールするよりも、将来のポテンシャルをアピールする方が有効だということも忘れないように。
6 相反する「温かみ」と「能力」の両方を伝えるには
転職面接で伝えるべきは、温かみと能力であると説明してきました。
これらは、相手に与える際には相互に打ち消し合う恐れがあります。
どういうことか。
「良い人」は、「凡庸で仕事ができない人」というイメージを持たれる可能性があるということです。
他方で、「仕事ができる人」は、「冷たい人」と見られがちです。
このような「ある特性に対して相反する二つの一般的見方があることを心理学者たちは補償効果(compensation effect)と呼びます」(ハルヴァーソン・同上126ページ)
この効果は多くのステレオタイプの中に浸透しており、これらを両立させるのは難問といえます。
ハルヴァーソンは、この難問を解決する手法を紹介してくれています。
どうしたら温かみのある有能な人間と伝達できるのでしょうか。
幸いなことに、このパラドックスを解決する方法があります。能力が低いと思わせることなく温かみを表現するのです。それには温かみの「道徳面」を表に出すことです。心理学者ポール・ロジンらの研究によれば、全般的な「温かみ」よりもむしろ「道徳的」であることの方が、相手が自分に対し善意を持って行動するかどうかを判断する材料であり、信用すべきかどうかのよりよい指標になるとのことです。
(ハルヴァーソン・同上128ページ)
転職面接で「人間的温かみ」をアピールするには、「やさしい」とか「他人の気持ちがわかる」「面白い人」「誰とでも仲良くなれる」よりも、「道徳的」であるとアピールする方がよいということです。
そうすれば、有能じゃないかも、と思われる危険性をやわらげられます。
では道徳面ってどういうことなのか?
以下のような特性です。
- 勇気
- 公正さ
- 信念
- 責任感
- 正直
- 信義に厚い
これらは、「善意と信頼性をよりよく相手に伝えることができる」道徳的特性です。
転職面接ではこうした面が伝えられるのがよいといえます。
こうした特性が伝われば、信用に足る人物と思ってもらえ、大成功です。
「この人はいつも道徳的に正しいことをする」と相手が安心していられるような人間であることが「信用」のすべてなのです。
問題は、これらを相手に伝えるのがなかなか大変だということです。
「公正な人」であるということは、「社交性がある」ということよりも伝わりにくいです。
(ただし、社交的、愉快、人当たりがいいなどの特性には、短時間に好印象を与えられるという有利さがあります。わずかな時間話をするだけで、 「信念を持った人間だ」などとわかってもらうのは難しいからです)
(ハルヴァーソン・同上128ページ)
ではどうこれを伝えたらいいのか?
面接だけでこれを伝えるのは至難の業です。
職務経歴書を使い、また、面接前に採用側とコンタクトのある転職エージェントをうまく使いましょう。
7 良い印象を与えるために転職エージェントと協力するー戦いは面接前から始まっている
転職活動において、採用者に与えるべき印象は、①人間的温かみ、②能力でした。
人間的温かみは、「人当りがいい」とか「誰からも好かれる」と言ったヤワなものは、無能と見られる危険性があるのであまりアピールすべきではありません。
「信念」とか「責任感」といった道徳的な面のアピールで人間的温かみを示した方がいい。
でも、これらはすぐには伝わらない。面接は30分とか1時間しかない。
ここで転職エージェントに活躍してもらう必要があります。
転職エージェントは、面接外で、採用側と面談や電話、メール等でやりとりする時間を持っています。
転職エージェントから、「すぐには伝わりにくい道徳面」を採用側に伝えてもらうべきです。
応募者は、
- 「勇気がある人です」
- 「公正に判断することを重んじる方です」
- 「信念にしたがって働く人です」
- 「責任感は誰よりも強いです」
- 「正直であり、嘘は決してつかないかたです」
- 「信義に厚く、裏切るようなことはされません」
こう転職エージェントから採用側に伝えてもらうのです。
こんなの自分でアピールするの変でしょ?
自分で言ったら、自信過剰だと思われてしまいます。
紹介者である転職エージェントに伝えてもらうのは非常に大事なことなのです。
転職エージェントの持つコネや紹介機能をバカにしてはいけません。
成功するためにはとても意味があるものなのです。
また、転職エージェント経由で予め伝えておいてもらえれば、じわじわとこうした道徳面を採用側が意識するようになってきます。
こうした特性は伝わるのに時間がかかりますからね。
こうした道徳面だけでなく、能力面についても転職エージェントからきちっとアピールしてもらいましょう。
面接では相手の話を聞くのが大事ですので、自分から自分のアピールをする時間はそれほど取れないかもしれません。また、あまりアピールしすぎると自信過剰と嫌われる可能性があります。
転職エージェントから「すごい有能な人材です!」と伝えておいてもらって、面接では謙虚さを出す。こういった連携戦術が有効です。
こうした連携戦術をとってくれる転職エージェントを紹介します。
JAC RecruitmentJACリクルートメントは、本記事で紹介してくれたようなメッセージ伝達戦略に同意してくれる担当者が多いといえます。
JACリクルートメントは、各担当者が、自分1人で企業と応募者両方に面談しているからです。
リクルートエージェントやdodaといった大手は、通常、企業担当者と応募者担当者がわかれます。
大手に相談にいって話を聞いてくれる転職エージェントは、個人では採用企業とのパイプを持っていません。パイプのない人が「この人の道徳面は素晴らしいです」なんてアピールできません。
JACリクルートメントのポイント
- 3大転職エージェントの1つ
- 高額案件に強い
- 内定獲得力が高い
▼公式サイト
ロバート・ハーフは、私の知り合いの海外MBA、USCPAホルダーから紹介してもらった外資系転職エージェントです。
「案件は少ないが信頼できる」との評です。
私が1件ロバート・ハーフから応募した案件では、「こうやってロバート・ハーフからアピールしてもらいたい」と色々リクエストしたら、快く応じてもらったことがあります。
ビズリーチエグゼクティブ転職ビズリーチは、特定の転職エージェントではありません。
ビズリーチに登録しておけば転職エージェントから声がかかるだけです。
ではなぜビズリーチをあげているかというと、転職エージェントから声がかかるので、「あなたは私と協力して売り込んでくれますか?」と質問をしてふるいにかけるために使うのです。
残念ながらそんな前向きな転職エージェントは少なさそうですが、いい転職エージェントもいるかもしれません。
ビズリーチのポイント
- 登録は無料
- エグゼクティブサーチ含めたくさんの転職エージェントから声がかかって効率的
- 高額案件を見つけやすい
▼公式サイトはこちら
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本記事は、転職面接でどのようなアピールをするのが効果的なのかを取り上げた記事でした。
ハイディ・グラント・ハルヴァーソン『だれもわかってくれない: 傷つかないための心理学 (ハヤカワ文庫NF)』(早川書房、2020年2月)を読んでいて、信用を得るためにすべきことについて説明されている章があり、転職面接でそのまま流用可能と考えて記事にしました。
本記事で紹介した内容は、心理学者の調査に基づいたとてもシンプルで実践しやすいアドバイスになっていることを期待しています。当然自分が面接を受ける際やそれ以外の場面でも使うつもりでいます。
ただ、もちろんこの記事の考えをテクニックを使うかどうかは自分自身で決められるのがよいと思います。自分にあった方法があるのであればそれを使うのがよいと思います。参考になるアイデアとして受け取っていただけたら幸いです。
コメント
コメント一覧 (9件)
[…] ための採用面接のアピール方法を説く記事が転職面接に受かるアピール方法 | ハーバード流面接突破術 です。 […]
[…] 詳しくは「転職面接に受かるアピール方法 | ハーバード流面接突破術」をご参照ください。 […]
[…] 転職面接に受かるアピール方法 | ハーバード流面接突破術で書いた通り、転職面接での自己PRには「自信過剰に陥らずに謙虚さを示す」のが重要です。 […]
[…] つまり、聞き上手は、転職面接に受かるアピール方法 | ハーバード流面接突破術で説明したアピール以下2つを何もせずにアピールできます。 […]
[…] 転職面接に受かるアピール方法 | ハーバード流面接突破術で述べているのは、自分が有能であることのみならず「人間的温かみ」があることをアピールせよということです。 […]
[…] これについては、転職面接に受かるアピール方法 | ハーバード流面接突破術の中で「有能であることを示す」ということをポイントであげています。 […]
[…] 「転職面接に受かるアピール方法 | ハーバード流面接突破術」の中で、人のこのような判断の傾向を紹介しました。 […]
[…] 転職面接に受かるアピール方法 | ハーバード流面接突破術で書いたようなアピールポイントに沿った事実を書いておくべきです。 […]
[…] 転職面接に受かるアピール方法 | ハーバード流面接突破術で書きましたが、自分の有能さをアピールする場合のポイントは以下3つです。 […]