転職のための情報収集と企業研究のやり方

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転職するにあたっては、転職候補先の企業につき、十分に時間をかけて調べるべきです。

本記事では、転職のたびにあれこれと転職候補先企業を調べ、個人投資家としても会社を分析してきた転職弁護士である管理人が「転職者のための企業研究・情報収集」を説明します。

目次

1 転職にあたって企業研究が必要な理由

なぜ企業研究が必要か。

新しい職場で自分の人生の多くの時間を費やすことになるからです。

その職場で働く時間には、当然ながら他のことはできません。転職するにあたっては、その企業に転職するのでよいのか、他により良い時間の使い方はないのか検討すべきです。

経済学でいう「機会費用(opportunity cost)」を考えなければなりません。

機会費用とは、「代替的な選択肢の中で最善のもの」のことをいいます(『アセモグル/レイブソン/リスト ミクロ経済学』(東洋経済新報社、2020年4月))。

転職して働けば、時間を仕事にかけるだけでなく、体力も使いますし、精神的にもすり減ります。

「重大な決断は直感を大事にします」という人もよく見かけますが、怠惰な選択をきれいな言葉(“直感”)を使って自ら正当化しようとしているだけです。

直感で仕事を選び転職を決めていいのかで書いた通り、転職先選びは、直感が馴染む種類の決断ではありません。

直感が向いている決断もありますが、転職はそうではないのです。

▼転職の決断に直感は向いていない 

2 転職のための情報収集には企業自らが発信する情報を確実に取得する

情報収集でまず抑えるのは、口コミや内部情報といった不確かな情報ではありません。

客観的な手堅い事実です。

それは、企業自らが公表している場合が多いです。

(1) 企業のウェブサイト

現代の企業情報の出発点ともいえるのが企業のウェブサイトを見ることでしょう。

多くの有益な情報が詰まっています。

以下では各項目を説明します。

(2) IR情報、投資家向け情報で有価証券報告書を読む

IRとはInvestors Relationsのことであり、株主・投資家への情報発信活動のことを言います。

上場企業は、投資家のために噓偽りのない情報をきちんと世の中に開示することを義務付けられています。

ほとんどの上場企業がウェブサイトで投資家向け情報のコーナーを設けています。

たとえば、トヨタ自動車。

global.toyota

正しい情報を広めることで投資家に十分な情報を提供することが株式市場を正しく機能させるための大前提です。

開示をきちんとしないであるとか、不正会計をするとかは、まともな株式市場形成を著しくゆがめる行為であり、大罪です。

そんな背景もあって、上場企業は、3ヵ月ごとに自社情報を継続的に開示しなければなりません。

そして、期末には1年の総まとめである「有価証券報告書」が作成されます。

有価証券報告書は、多くの上場企業は自社ウェブサイトで公開しています。

「会社名 有価証券報告書」と検索すれば、その会社のIRコーナーにすぐにたどり着けます。

自社ウェブサイトでの掲載が不十分な企業の場合は、「会社名 有価証券報告書」で検索するか「会社名 有価証券報告書 株主プロ」と検索すれば、その会社の有価証券報告書をまとめているサイトですぐに見に行けます。

多くの人には、とっつきにくい有価証券報告書ですが、監査法人やら法律事務所やら多数の人が多くの労力を割き、膨大な時間と費用を作られた最強の開示資料です。

ぜひ読むべきです。

上場企業のことを知るのに一番良い資料が有価証券報告書です。

非上場企業の場合は有価証券報告書の作成義務がない場合がほとんどですので、どこ会社も作成していません。

そのため、転職候補先企業が上場企業であるのは喜ばしいことなのです。

なぜかといえば、その会社の有価証券報告書が読めるから。

それくらいありがたい資料です。

最強投資家のバフェットのビジネス勉強法からして、日本で上場企業のことを知るために最高の資料は有価証券報告書だと言えます。

有価証券報告書がありがたいのは、その会社の一番信頼できる財務諸表が含まれているからです。

財務諸表は、企業の経済活動を計数によって測定し、その結果を要約して利害関係者に報告するための書類であり、主として貸借対照表および損益計算書とよばれる2つの書面からなる。このほか株式会社の場合は、獲得した利益の配当や株主からの追加出資などによって生じた純資産の変動に関する書面が追加される。また必要に応じて、詳しい明細情報を掲載した書面が含められることも多い。

(桜井久勝『財務諸表分析(第8版)』(中央経済社、第8版、2020年3月)4ページ)

要するに、貸借対照表と損益計算書が含まれていて、それ以外にも財務数値があれこれと有価証券報告書には書かれているのです。

財務諸表は、その企業がどういう企業なのかということについて知るとてもよい資料です。

財務諸表は企業情報の宝庫であるといわれるとおり、個々の企業の活動の経済的側面について知識を得るための、最も優れた情報源泉である。

(桜井・同上)

財務諸表は、企業について知る上で「最も優れた情報源泉」です。

転職活動でこれを使わない手はありません。

「従業員もまた、給与水準や労働条件との関係において企業の収益力や生産性に興味をもつとともに、将来に受け取るべき賞与や退職金について、債権者と同様に企業の支払能力にも関心を有する」(桜井・同上)のですから、従業員になるための活動である転職活動では、気になる会社の財務諸表はぜひ読むべきです。

なお、会計がさっぱりだという人が会計を勉強するには簿記3級がおすすめです。

(3) IR情報のうち会社説明会資料

IR情報のコーナーには、投資家向けの説明会資料を掲載しているところが多いです。

これもお勧めです。

多くの企業がフルカラーの写真や図を多用した資料を用意しています。

過去の説明会動画が見られる会社ウェブサイトもあります。

この資料のいいのは、有価証券報告書よりざっとポイントがつかめるところです。

最初に会社説明会資料をざっと読んでから有価証券報告書に移れば、有価証券報告書アレルギーをやや緩和できるかもしれません。

また、「個人投資家向け説明会資料」というのがあればよりとっつきやすい内容になっています。 

たとえば、三菱商事は個人投資家セミナーの動画を公開しています。

www.mitsubishicorp.com

事業について解説されていますので、転職を考える際には参考になります。

(4) 採用コーナー

採用コーナーは、企業情報を得るためにおすすめです。

わかりやすく解説してくれています。

転職者であっても、新卒者向けのページは参考になります。

こんなリクルート向けの動画がありました。

enlist.jp

金属資源本部というなかなかイメージしがたい部署の仕事が短い時間の動画でまとめられています。

3 企業以外の第三者情報

企業情報はその企業以外の第三者からも取得できます。

(1) 新聞、雑誌、書籍等の比較的かたい情報源

新聞でおすすめなのは、日本経済新聞ですが、日経産業新聞もかなりおすすめ。個別の企業の情報がけっこう載っています。

また、日刊工業新聞等の業界新聞もその業界の企業の情報が載っています。

こんな新聞の情報をどうやって得るか?

証券会社の口座を開設していると日経テレコンが使える証券会社があるので、私はそれを使って日経テレコンから企業情報を検索しています。

楽天証券等の口座を開設すれば日経テレコンが使えます。

また、日経ビジネスや東洋経済などのビジネス誌では、新聞よりも特定の企業や業界の特集が組まれやすいです。

さらに、書籍の方が雑誌よりも情報は充実しています。情報の鮮度は落ちますが、転職のための情報であれば、鮮度よりも基本的な情報の方がほしいでしょう。

大きな企業であればその会社のことを特集した本が色々あります。

創業者の伝記もあります。

他人から学ぶのは最高によい勉強法【成功の秘訣】で述べた通り、優れたビジネスパーソンの伝記を読むのはよい勉強になりますし、会社の勉強にもなります。

一石二鳥。

業界について研究する本もたくさん出ています。 

(2) その会社の社員に直接聞く

求人情報を出しているその会社の社員から、働いてみてどうなのかはぜひ聞きたい情報です。

もし知り合いがいるのであれば、伝手を辿って話を聞くべきです。

しかし、内部で現に働いている人であっても、極めて主観的な情報であり、情報の質は玉石混交であり、極端な意見も含まれることに注意すべきです。

運よくある社員と面談できて情報を聞き出せたとしても、その人の情報が正しいかはわかりませんし、自分に役に立つ情報を聞き出せるとも限りません。

内部社員からの情報を聞けるなら、主要な福利厚生(住居手当等)を聞けるといいですね。

これは入社前にはなかなか手に入れにくい情報です。 

(3) 転職エージェント

転職エージェントは、その会社とやりとりしているので、応募者よりは詳しいです。

転職エージェントの中には2種類のスタイルがあります。

  1. ①企業への営業と②応募者への対応の①と②を分けて行う大手のスタイル(リクナビ、doda等)
  2. ①と②を同じ人が行うJACリクルートメントや小規模転職エージェントのスタイル

上記2.スタイルの担当者の方が詳しい情報を教えてくれることが多いです。 

ここでも注意なのは、情報の信頼性はあまり高くないことです。

転職エージェントの教えてくれる企業内情報は、それほど信用できないぞ、という意識は持っておくべきです。

特にビジネスがどうだ、業界がどうだ、と知ったかぶりを吹かせ始めたら要注意です。

事業について語った転職エージェントの情報があまりまともだったことはありません。

転職エージェントに聞かずに自分で調べられる情報は自分で集めるべきです。 

ただ、面接官の情報は転職エージェント以外では集めにくいので、そういった転職エージェントしか知り得ない情報をメインに転職エージェントに質問すべきです。

(4) 転職情報サイト

転職会議等の口コミサイトです。

これは、ちょうど自分の応募したポジションの情報があるとは限りませんし、匿名で会社のことをあまりよく思っていない人が書き込み者の中心ですので、あくまで参考情報くらいに思い、重視すべきではありません。

あるホワイトな部署で、1人「俺、毎日長時間残業。他の人達マジ使えない」と言っている狂った社員がいて、その社員が口コミサイトに書き込みでどわーっと書いていたりするかもしれません。しかもその会社のオフィスで夜遅く“残業”時間中に。

話半分で聞くという意識がとても重要です。

主な転職口コミサイトは以下の通りです。

① 転職会議

国内最大級100万件以上の転職口コミ情報が掲載されています。

また、転職会議独自の求人票があり、大手転職サイトとも求人提携をしています。それにより、多くの求人をまとめて検索できます。

会員登録すると48時間、転職会議内の企業口コミが見放題です。また、在籍した企業の口コミを投稿すると、最大90日間企業の口コミが見放題となります。

② openwork(旧 vorkers)

③ キャリコネ

careerconnection.jp

④ エンライトハウス(旧 カイシャの評判)

en-hyouban.com

4 手堅い情報を基本にして、疑わしい情報はあまり重視しないように注意する

転職活動で情報を入手するのに一番おすすめな媒体は、有価証券報告書です。上場企業ならぜひ有価証券報告書をよく読みましょう。

なぜかといえば、一番信頼性が高い情報源であり、情報量も多いからです。

信頼性が高い情報をベースにするのは誤った認識を持つことになるのを防ぎます。

客観的で信頼できる情報を基本にするようにしましょう。

手堅い証拠から動かしがたい事実を基礎にして検討するのは、裁判官も実際に行っている判断の方法です。

ふわっとした他人の意見や感想を重大な判断において重視してはいけません。

自分の人生がかかっています。

かたい情報を丹念に集め、よりよい企業分析となるよう心がけましょう。

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