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仕事ストレスは裁量の乏しさに由来するので転職でも注意すべき

仕事の裁量

箸の上げ下げまでも上司に「ホウレンソウ」で楽しいか?

仕事で細かいことも含めて何もかも上司の許可を得ないと進まない。

これは非常にストレスフルな状況です。

しかし、このような状況はどの職場にもありふれています。

「自分で決められない」という裁量の乏しさは、仕事上の大いなるストレスです。

それはなんと喫煙以上の健康被害を及ぼすといいます。

(2020年5月8日改訂)

1 裁量がないのは仕事で重大なストレス要因

任されるとうれしいですが、あれこれ口出しされると仕事がやりにくい。

度が過ぎると自分では何もできなくなります。

私は、最初の職場は法律事務所でしたが、ボスが全てを管理するスーパーマイクロマネジメントでした。

最初の1年くらいはメールは送信前に全て紙に打ち出してボスに添削してもらってから送信していました。

窮屈でした。そんなものかな、とも思ってましたが、やりにくいですよ。

仕事の裁量がまったく与えられなかったり、ごくわずかしか与えられなかったりすると、人間は意気沮喪(*そそう)する。自分に任された仕事をうまくやってのけたという充足感から人間は自信をつけるのに、裁量が十分に与えられていない状況では「任された」のではなく「言われたとおりにやる」だけになり、責任も感じないし、うまくできても達成感もない。その結果、ストレスがつのることになる。とくに、それまで成功し自信満々だった人ほど強く不満を感じる。
この場合、会社を辞めるか、すっかりやる気を失って努力しなくなるか、あるいはその両方になりやすい。また仕事の裁量が乏しくストレスを強く感じれば、負の感情に悩まされ、抑鬱や不安に陥りかねない。このように、仕事の裁量は就労者の学習能力、意欲、感情ひいては心身の健康に重大な影響を及ぼす。
(ジェフリー・フェファー『ブラック職場があなたを殺す』(日本経済新聞出版社、2019年4月)186ページ)

上記は、本記事のベースとなった書籍の該当箇所の要約に該当する部分です。


仕事がやりにくい。

それくらいで済めばいいんです。

その程度の窮屈感しか上司に感じないのであれば、その上司は悪くありません。

問題は仕事の裁量の乏しさがメンタルヘルスに関係することです。

仕事の裁量性は、当然ながら身体的健康のみならずメンタルヘルスにもかかわってくる。自分の仕事を自分ですこしも決められないというのは、どう考えてもストレスフルな状況だ。報酬や公式の地位はどうあれ、自分の判断に委ねられる余地がまったくなかったら、無力感に襲われるにちがいない。
(183ページ)

裁量がないということは、事態を自分でコントロールできないということです。

コントロールとストレスは関係があります。

自分のいる環境をコントロールする能力が奪われてしまったら、たくさんの人がストレスや不安を感じるだろう。だから助手席よりも運転席にすわるのを好む人は多いし、渋滞で身動きがとれなくなると心穏やかではなくなる。

(ターリ・シャーロット『事実はなぜ人の意見を変えられないのか-説得力と影響力の科学』(白揚社、2019年8月)104ページ)

 

自分の判断が全く通らない職場は、コントロール感がなく、狭く暗い部屋に閉じ込められるようなものです。

 

「自分の判断が全く通らない」

こうなるとどうなるか?

自分で考えなくなります。ただ指示待ち。

何言ったって怒られたり、上司の意見以外通らないなら自分の意見なんか持ちません。
時間の無駄だし、疲れるだけです。

 

この疲れが続くとまずいです。

アメリカ北東部の72のさまざまな組織に属す約700人を対象にしたある調査では、仕事の裁量性と自己申告による不安や抑鬱症状の間に負の相関関係が認められたという。この調査では、裁量が大きくなるほど、不安や抑鬱が少なくなることが確かめられた。
(183ページ)

 

こうしたメンタルヘルスの悪化は、心臓等の体の健康にも悪影響を及ぼします。

裁量の乏しさは寿命を縮ませます。

 

2 裁量の乏しさによるストレスは脳疾患、心臓病を引き起こす

ある研究は、仕事の裁量性が乏しい状況は心臓疾患や死亡の重大な要因になり得ると結論づけている(73ページ)。


(1) 職階の低い人は1.5倍心臓病になりやすい

裁量のない仕事は喫煙より不健康

簡単に調査結果を先に言うと、「職場の偉くない人の方が心臓、脳の病気の発症率が高かった。偉い人の方が健康だった」ということです。

1970年代に、イギリスの疫学者マイケル・マーモットのチームは、ある興味深い事実に気づいた。イギリスの公務員の場合、地位が上がるほど、脳血管障害(CVD)や冠動脈性心疾患(CHD)の発症率と死亡率が下がることである。
……公務員の職階が、健康に重大な影響を及ぼすことが確かめられたのである。いったい、なぜだろうか。
……調査結果について、マーモットは次のように解説している。

「CHDを新たに発症するリスクは、年齢調整後で、職階が最も低い男性群
(事務職および事務支援スタッフ)の場合、最も高い男性群(局長クラス)の1.50倍に達した。……女性の場合のCHD発症リスクは、職階が最も低い群は最も高い群の1.47倍だった。この差を説明し得るさまざまな要因を検討した結果、最大の要因は仕事の裁量性が乏しいことであるとの結論に達した。」

 

つまり、職階の低い人は、年齢調整後(一般に病気の発症率と死亡率は年齢とともに上昇するため)のCHD発症リスクが、職階の高い人よりも50%も高いということだ。男性も女性も、である。また男性の場合、局所貧血を起こすリスクは、職階の低い人は高い人の2倍以上に達するという。しかもその単独の最大の要因は、仕事の裁量性だというのである。喫煙よりも、自分で自分の仕事をコントロールできないことのほうが心臓疾患を起こしやすいとは、驚くべき結論ではないか。 

 

職場での地位が低い人の方が心臓病や脳疾患に罹患する率が高かった。

その単独の最大の要因は仕事の裁量性。

これは恐い事実です。


(2) 偉い人の方がストレスが少なく病欠が少ない

心臓病までいかなくても、ストレスで不健康になったり病気になったりすることはあります。

心臓疾患の有無は健康状態を表す重要な指標ではあるが、唯一の指標ではない。ホワイトホール研究では、職階による病気欠勤の度合いも調べている。すると、職階の最も低い男性の病気欠勤日数は、最も高い男性の6倍にも達することが判明した。女性の場合の格差はそこまでではないものの、職階の最も低い女性の病気欠勤日数は、最も高い女性の2~5倍に達するという。

病気欠勤日数の差

職階の最も低い人:職階の最も高い人

=6:1

 

休めない責任感もあるかもしれませんが、偉い人の方が病欠がはるかに少ない。

 

3 部下を早死にさせる恐るべき上司

職場で裁量の問題となると、上司・部下の関係は切っても切り離せません。

(1) 部下を確実に絶望させる方法

こうすれば部下は絶対弱ります、という方法。

ネズミかイヌ、あるいは人間でもいい、とにかく何か生き物を泣かせたり、落ち込ませたり、怒らせたり、絶望させたりしたいと思ったら、確実な方法は、理由もなく行き当たりばったりに罰することである。

あるいは、思いつきであれこれ命令し、すぐさま逆の命令を出すことである。

要するに、自分が他人の意思に翻弄され、手も足も出ないと相手に思わせることだ。

長い間仕事をしてきた人の大半は、締め切りが突然前倒しになったり、仕事の担当が事前通知もなく変更されたり、指示通りにやったのに不当に罵倒されたりしたことがあるのではないだろうか。

これは考えるだけでおそろしい。。

言ってることが支離滅裂な人の下で働くのは気が狂います。

 

「私は怒ったり罵倒したりしないし部下にも丁寧だから私がこんな上司であるわけがない」

こう思っている管理職も要注意です。

 

なぜ要注意か?

言葉遣いが丁寧語でも、「思いつきであれこれ命令」する人なら同じように部下を絶望させるのが得意な上司です。


(2) 上司の気まぐれは学習性無力感を引き起こす

「こいつマジ使えねえ」

と上司が思って部下にあれこれ言っていると、その上司のおかげで、部下が真正使えない無気力社員になります。

上司は重罪です。

上司が思いつきや気まぐれで行動し、朝礼暮改を繰り返していると、部下は次に何を言われるかわからないので戦々恐々とする。これは心身ともに実に消耗させられる状況だ。回避不能な嫌悪刺激に長期間さらされ続けると、その刺激から逃れようとする自発的な行動が起こらなくなる。これを学習性無力感(learned helplessness)という。
学習性無力感に関するある研究は、「制御不能な要因への長期的な曝露は生命体を甚だしく衰弱させる」と報告している。
「心的外傷を受けて無抵抗になり、どう対応すればいいか学習する意欲もなくなり、著しい感情的ストレスを感じる」という。

 

これは、強烈なストレスを感じていた昔の職場を思い出します。。

ただ言われたことだけをして、それでもひたすらダメ出しされて疲弊しきってました。

となれば、仕事の裁量性が疾病率や死亡率を左右するのも驚くには当たらないし、裁量の余地が多いほど健康で長生きできるのももっともだと納得がゆく。

自分で決められる方が健康的なんですね。


(3) 「もうお前には頼まない」と言い放つ上司

ある具体例です。

ウェブ国際会議の開催支援を行なう企業のある社員は、仮議事日程を用意して上司に提出したところ、「全然なってない。別の人間にやらせるから、おまえはもうやらなくてよい」と言われたという。
すでに徹夜続きで疲れきっていたこの社員は「自分がゴミのように扱われたと感じた。おまえはもうやらなくていいと言われて、ボクは次にどうすればいいんだ?」と話す。このような不適切で暴言に近い上司の発言は、部下にやる気を失わせる。「正直なところ、ここで続ける意味はあるのかと思った」

これも法律事務所でよくありました。

ある文書を作成、ボスが添削、と繰り返していると、ボスがしびれを切らします。

「もういい。俺がやる」とボスが書面作成を全部引き取るのです。

これは「お前はダメだ」というメッセージで、強烈なストレスを感じます。

ボスとやりとりしなくなってほっとする面もあるのですが、「クビになるんじゃないか」という恐怖感も感じます。なにより、自分の無力感を絶望的に感じます。

 

4 裁量をうまく与えることでよい上司になれてよい職場が作れる

裁量がないと人は死ぬほど苦しい。

では裁量を与えればどうか。

従業員に仕事の裁量を与えることは、本人のやり甲斐や健康にとってプラスになるだけでなく、経営者にとってもプラスである。

なるほど。
経営者にもプラス。
なぜそう言えるのかな。

数十年にわたる縦断的研究も、仕事の裁量の余地が大きいこと、つまり何をどの順序でどうやるかを自分で決められることはきわめて重要であり、
仕事満足度や意欲を大きく左右すると結論づけている。
それも、場合によっては報酬より重要だという。

また仕事の裁量は、仕事の出来にも好影響を与える。仕事を任されればモチベーションが上がるので、自分の能力を最大限に発揮して最高のやり方で成果に結びつけることができるからだろう。

いいことづくめですね。

ただ、このモチベーションの高さと業績には相関関係はあるが因果関係はない、という主張もあるので要注意です(フィル・ローゼンツワイグ『なぜビジネス書は間違うのか』)

 

5 仕事の裁量を部下に与えない上司の心理

裁量がほしいとみんな思ってる。

重い全責任とまでは言わなくてもある程度は自分の思うように決定したい。

多くの人がそう考えています。

今現在の上司もそういう思いをしながら部下時代を経て上司になっています。

それなのにいつの時代も多くの上司は常に命令一辺倒です。

なぜ裁量は上で留まって下にいかないのでしょうか。

一言で言えば、「私は優秀」という上司の思い込みが原因です。

 

(1) 社会心理学者ロバート・チャルディーニとの実験

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

私は20年ほど前に、社会心理学者のロバート・チャルディーニと博士課程の学生2人とともに、従業員に裁量を与えられない理由を調べる実験を行ったことがある。

おお、あの「影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか」のチャルディーニとの実験とは!

この本もとてもいい本です。おすすめ。

 

(2) 自己高揚動機に駆られる

上司も人。

自分が優秀という思いたいとの心理には勝てません。

人間は、自分は有能だと思いたがる。
だから、自分のこの感覚をより一層強めてくれるようなことに熱心に取り組む。このように自分についてよい感情を持ちたい、自己評価を高めたいという動機を自己高揚動機(self-enhancement motivation)と呼ぶ。


(3) 自己高揚動機に駆られた上司は部下にあれこれ口出しする

自己高揚動機に駆られると、心理学的に2つの結果に立ちいたる。

自己高揚動機に駆られた上司はどうなるんでしょうか。

① 自分は有能という幻想にとりつかれる

第一に、自分は有能であり事態を思い通りにできるという幻想にとりつかれる。自分がちょっと手を貸したり介入したりすれば、それによって状況は好転すると思い込むのである。

管理職にはこういう人がけっこう多い気がする。。

何か問題があると「私がやらざるを得ないな」みたいな感じで介入する。

当然「私はお前より優秀だから、口出しすればうまくいくんだ」という顔してやって
きます。

これは恐ろしい心理です。

上司の方が部下より劣る場合、上司の介入によって、上司より優秀な部下の仕事を台無しにしてしまうのです。

 

この幻想あるいは錯覚に関する古典的な研究では、何の規則性もなく偶発的に起こる事象(たとえばサイコロ投げ)を自分の力で変えられる、と考える人が多いことが明らかにされている。

はい。そんな感じの自信に満ち溢れた表情をしておられますね。

気をつけねば…!


② 自分は抜群の管理能力があると思い込む

第二に、人間は自分を過大評価し、結果を改善する能力に自信を持っているので、自分に介入の余地がたくさん与えられている場合(または与えられたと思っている場合)ほど結果を肯定的に評価するようになる。
かんたんに言ってしまえば、人間は自分の監督能力に自信を持っており、
しっかり監督するほど結果はよくなると思い込んでいる、ということだ。

部下に口出しすればするほど事態を好転させられると思い込むわけですね。

理由は?
―上司だから。

上司だからといってある局面での問題解決力が部下より高いとは限りません

でも単に「上司であるから」という理由で自分が介入すればうまくやれると
思って口出ししてしまうのが「上司の心理」です。

 

(4) 自分でコントロールしたい

人は状況をコントロールできる方が幸せです。

人間は生物学上、自分がコントロールしているときは満足感という内なる報酬を受け、そうでないときは不安という報いを受けるようにできている。

(ターリ・シャーロット『事実はなぜ人の意見を変えられないのか-説得力と影響力の科学』(白揚社、2019年8月)125ページ)

 

管理職も人です。仕事をコントロールできる方がいいのです。

他人に任せたらコントロール感がなくなってしまいます。

これがマイクロマネジメントを生みます。

他の人間にコントロールを譲るのは、やはりこのうえなく恐ろしい。
多くのマネージャーが、生産性や士気を損ねるにもかかわらず、部下を細かく管理する必要があると感じてしまうのはこのためだ。

(同上・126ページ)

 

6 転職を考える際には仕事の裁量の有無、広さを考慮せよ

いかがでしたでしょうか。

仕事の裁量は本当に重要。ストレス、健康、命にかかわる、という記事でした。

今の仕事で裁量がなさすぎて辛い、という人だけでなく、それ以外の理由で転職を

考えておられる人にとっても、職場での「裁量の広狭」は超重要です。

 

ぜひ転職活動時には職場選びの1項目として「裁量」を加えることをご検討ください。

行動経済学者ダニエル・カーネマンの書籍をベースにした心理学を応用した転職先選びでは、6項目作ることを推奨していますので、「裁量」を加えるとよい判断基準になりそうです。 

www.career-rule.com

 

「自分で決める」ことができる環境で仕事ができるといいですね!

 

▼ジェフリー・フェファー『ブラック職場があなたを殺す』(日本経済新聞出版社、2019年4月)に基づく記事 

www.career-rule.com

 

 

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