司法修習生の就職先は法律事務所と企業のどっちがいい?

  • URLをコピーしました!

新卒司法修習生は、法律事務所と企業どちらへ就職すべきか。

法律事務所への就職をおすすめします。

勉強してきたことが活かせますし、法律の実務家として力を付けられるのは企業より法律事務所の方だと思います。

若いうちに「法律のプロ」であるボス弁の近くで働くことは、将来自分も「法律のプロ」として働きたいのであれば、決定的に重要です。

知り合いになる人は注意深く選ぶべきだ。なぜなら、知人から大きな影響を受けることになるから。これはとりわけ、若者に当てはまる。

(リチャード・E・ニスベット『世界で最も美しい問題解決法 ―賢く生きるための行動経済学、正しく判断するための統計学―』(青土社、2018年1月)61ページ)

企業に興味があったしても私は法律事務所を勧めます。

企業へは法律事務所に就職した後でも転職できます。

他方で、「会社員になりたいので迷わず企業」という人は企業への就職で問題ありません。 

本ブログ記事では、複数の法律事務所と会社法務部に勤務して、多くの弁護士と話して感じたことを書きました。 

目次

1 法務実務能力が身につくのは法律事務所

世界屈指の投資会社ブラックストーンの創業者であるスティーブ・シュワルツマンは、若者が就業すべき仕事についてこうアドバイスしています。

若いうちは、学べることが多くてしっかり研修させてもらえる仕事につこう。最初の仕事が基礎になる。立派そうに見えるという理由で就職するのはよくない。

(スティーブ・シュワルツマン『ブラックストーン・ウェイ PEファンドの王者が語る投資のすべて』(翔泳社、2020年)365ページ)

司法修習生の最初の就職先として、学べることが多いのは、会社よりも法律事務所です。仕事が実質的に研修のようなものです。

学んできた法律知識を活用して仕事ができます。

知識の実務への適用を活かせるのも法律事務所です。

なぜか。

法律事務所の方が、法的知識のアウトプットに対するストレス、プレッシャーが圧倒的に大きいからです。

法律事務所の弁護士は、クライアントから対価をもらうには何らかの法的な(それっぽいものを含めて)アウトプットを示さなければなりません。

自分の知見を切り売りするのです。

よっぽど鈍感な人でなければ、これはけっこう苦しいことです。

「私はこんなことをやりましたので〇〇円支払ってください」と請求しなければならないということです。

イソ弁、アソシエイト弁護士は、そうしたプレッシャーのかかるボス弁、パートナー弁護士の下で働きます。

ストレスを日々感じている人の下で働けば、必然ストレスフルな就業環境になります。 

大変なところにいくとほんとにきついです。

ストレスを感じているだけで力が付くわけではありません。

ストレスフルな職場環境のことを肯定したくはありません。精神的に追い詰められて長時間労働をするのが尊いとは思いません。

しかし、リサーチをするにも文章を書くにも、プレッシャーが大きな差を生み出します。

クライアントから意味不明な質問をされ、答えがないとわかっていても、誰にも質問できません。何とか回答を作らないといけないのです。この「誰にも聞けない・自分でどうにかするしかない」というのがキーです。パートナー弁護士に聞いてもわからないので、自分で一次的に処理しなければならないのです。

ストレスがかかると、リサーチも真剣・入念に行います。文章を書くにも、論理的におかしくないかなどしっかりチェックします。これを継続的に続けていくと、続けていない人との差は歴然となります。

文章をきちんと推敲する人習慣が付いている人と、「推敲?何それ?」という人とは違いが出るんだなあといくつかの職場で働いて気がつきました。

文章力にも差がつきます。 

法律事務所でもこうしたよい経験が積めるかどうかは、事務所(というよりもボス弁、兄弁)によりますので注意が必要です。

これに対して、会社は環境が違います。

定期的な給料をもらうので、業務対価性という意識が乏しいのです。在籍しているだけで給料が出ます。

わからないことがあると、自分で調査や整理もせずにすぐに顧問弁護士に質問(丸投げ)することだってよくあります。

会社の側でこれをやっているのはよく見ますし、法律事務所にいた時には、クライアントである法務部員(中には弁護士資格保持者)から受ける質問で、「これくらい自分で調べて考えたらわかるでしょ?」というようなものに呆れることがありました。

法律事務所の弁護士がインハウスローヤーに対して、「それくらい自分で考えろよ」と思う不満は少なからずあるはずです。

「顧問料の範囲内だから」ということでどうしようもない質問も会社法務部の人達は簡単にします。

この簡単な「答え」へのアクセスが問題発見能力や解決能力の成長を阻害しています。企業法務部員は、自分の成長のタネを外部法律事務所に投げてしまっているのです。

法律事務所に比べると企業の法務部はぬるま湯であることが多いです。

会計士の業界も同じらしく、監査法人から日系大企業に転職した会計士が、こう評してました。

「(監査法人に比べて大企業は)ぬるま湯だよね」

そして、こうも言っていました。

「監査法人ではいつも勉強してた。業務に必要だから。今は全く必要ないから勉強する気は起きない。」

法律事務所と企業法務部、所属している当人たちは自覚がないと思いますが、法的問題解決能力の差は日々開いていきます。

それでも同じ職場でなんとなくでやっていればやがって仕事に慣れ、後輩も入ってきて自信も付いてきます。根拠のない自信が。日系大企業で数多く生まれる傲慢サラリーマンの仲間入りです。 

2 法律事務所で勤務してこそ弁護士としての希少性が発揮される

新卒で弁護士になって最初に企業に入ると、その人は一般的な「弁護士」の範疇には入りません。ただのサラリーマンです。

法律事務所という専門家集団の中で働いていた、ということが重要なのです。

インハウスローヤーになりたいとしても、法律事務所勤務経験があるのは有利です。

法律事務所と会社両方で働いたことがあることを重視する求人もあるからです。

3 法律事務所から企業へは転職しやすいが、企業から法律事務所へは転職しにくい

上記2のとおり、法律事務所勤務経験というのは企業からすると珍しい(いわゆる「弁護士先生」を雇用できる機会)といえます。また、上記1のとおり、法務部員に比べると外部法律事務所の弁護士の方が法務実務の処理能力が身に付きやすいです。

「先生」といって高い報酬を支払っていた身分のお方を会社員の給料で使えるというお得感があります。

法律事務所の仕事で企業就業経験が役に立つかというと、役には立ちますがなくても問題ありません。

それよりも法律事務所業務を高いレベルでできるかどうかが重要であり、企業での経験はほとんど活きません。

「会社の内部のことを知っており、クライアントの真のニーズを理解した・・・」といったありがちな企業勤務経験者のアピールがありますが、ほとんど意味がありません。

1社か2社で経験したくらいでクライアントの真のニーズがわかるようになるはずがないのです。

また、企業のゆるやなか環境に慣れてから法律事務所に移籍するのはしんどいです。

私の周辺の法律事務所からインハウスローヤーになった人は声をそろえて「法律事務所には戻れない」と言っています。私もそう思います。

ただ、インハウスローヤーから法律事務所に戻るケースが皆無なわけではありません。

転職エージェントからも「法律事務所への転職に興味はないか?」とはちょくちょく聞かれます。

4 企業の方が研修等の教育制度がしっかりしていてよいという浅はかな意見

ほとんどの法律事務所に研修制度等はない。

それに対して大企業は研修制度が充実している。

若者はしっかり研修を受けられる会社に行くのがよいのではないか。

こういう意見があります。

これには賛成できません。

「しっかり仕事の基礎が身につく」とは、「研修がしっかりしていること」ではありません。

研修はしょせん研修です。

研修の有益性は否定しませんが、仕事がメインで研修はおまけくらいで考えるべきです。

そして、大企業の研修だからといってすごいことをやっているわけではありません。

また、仕事の経験の全然ない人は、研修を受けても「はあ」といった感じになり、あまり吸収できません。

ある程度仕事の経験があって実務の研修は効果を発揮します。

若者に「研修制度を重視して職場を選べ」というのはよくないアドバイスです。

そのようなアドバイスをする人は、「教育」=「研修」と短絡的に考えています。

研修制度の充実度をもって法律事務所よりも大企業を推す人は、大企業の研修に対する理解が乏しいといえます。

大企業法務部が新卒に対してどのような優れた研修制度を提供しているというのでしょうか。

司法試験合格者に対して司法研修所以上の十分なトレーニングを提供できるとは思えません。

5 有識者(法律事務所・企業両方の経験者)は語る「まず法律事務所に行くべきだ」

法律事務所からインハウスに転身をしたある弁護士に質問しました。 

最初は法律事務所に行くべきとの意見です。

にゃんがー新人弁護士は、法律事務所と会社、どちらに就職するのがよいですか。
有識者法律事務所です。
にゃなぜですか。
有識者弁護士としての基礎的な力が身につけられるからです。
弁護士業界には、徒弟制度のような発想があり、最初の2,3年はよい「師匠」のような人について仕事を覚えるのがいい。
にゃ最初から会社法務部に就職するのはどうですか。
司法修習を経て弁護士資格を持っています。
有識者会社に入ると「リーガル」人材にはなれません。
にゃそれはどうしてですか。
有識者会社に入れば先輩も上司もサラリーマンです。
サラリーマンとして育てられ、リーガルというよりサラリーマンになってしまいます。

司法修習生も法務専門の転職エージェントに相談できるので、就活で悩んでいる人は相談してみましょう。

6 法律の専門家とみなされるには法律事務所で働くべき

司法試験に合格して弁護士になる人の多くは、法律の専門家として働きたいと考えています。中には法律を使わない仕事に就く人もいますが、少数です。

世間から法律の専門家と認知されたいと考えるならば、法律事務所で働くべきです。

弁護士のように、判断の良し悪し検証できない事柄についての判断することを生業とする専門家のことを、同業者からの尊敬をベースに権威づけられていることをもって、行動経済学者のダニエル・カーネマンらは、「リスペクト専門家」と読んでいます(ダニエル・カーネマン=オリヴィエ・シボニー=キャス・R・サンスティーン『NOISE〔下〕組織はなぜ判断を誤るのか?』(早川書房、2021年12月)46ページ)。

カーネマンは、リスペクト専門家の例として、弁護士のほかに医師と経済アナリストを挙げています。

世間で偉そうとされる職業の人達です。この人達を「リスペクト専門家」と呼ぶカーネマンらのコメントは以下のとおりです。

この呼び方に軽蔑や揶揄が含まれていると考えないでほしい。判断の正確さを検証できないような事柄があるということは、専門家に対する批判でも何でもない。多くの分野について、それが人生の現実である。教授、研究者、経営コンサルタントの多くはリスペクト専門家である。彼らに対する信頼は、学生、同僚、顧客からのリスペクトによって決まる。こうした分野では、あるプロフェッショナルが下した判断は、同業者の判断とだけ比較検討することができる。
誰が正しくて誰がまちがっているかを明確に決定づける正解がないとしても、人々はやはりリスペクト専門家の意見を重んじる。たとえ彼らの主張が互いに矛盾していても、だ。

(ダニエル・カーネマン=オリヴィエ・シボニー=キャス・R・サンスティーン『NOISE〔下〕組織はなぜ判断を誤るのか?』(早川書房、2021年12月)46ページ)

本記事では、リスペクト専門家が良い・悪いということはさておきます。

リスペクト専門家が世間では権威ある存在として認められているという前提のもと、司法試験に合格した新人弁護士が一人前のリスペクト専門家として認めてもらうには、会社で企業内弁護士になるよりも法律事務所に就職すべきだという話をします。

新人弁護士は、どうすれば「リスペクト専門家」になれるのでしょうか。

カーネマンらはこの問いを立てています。

専門家の質を客観的に検証する基準が存在しない状況で、その人が別の誰かを専門家として信頼するのはどんなときだろう。要するに、何がリスペクト専門家を作り上げているのだろうか。

(ダニエル・カーネマン=オリヴィエ・シボニー=キャス・R・サンスティーン『NOISE〔下〕組織はなぜ判断を誤るのか?』(早川書房、2021年12月)48ページ)

どうしたら有能な弁護士として認知してもらえるのでしょうか。

顧客によっては、司法試験に合格して弁護士バッジがあるだけでもいいかもしれません。しかし、それだけでは信じない非弁護士もたくさんいます。

(1) 法律事務所でプロ弁護士の共通規範のもとで働く

リスペクト専門家の世界には、その世界特有の共通規範があり、それを身につける必要があるとカーネマンらは説きます。

(注 何がリスペクト専門家を作り上げているのだろうかという問いに対する)答えの一部は、共通の規範あるいはプロフェッショナルとして守るべき原則の存在で説明できる。

(ダニエル・カーネマン=オリヴィエ・シボニー=キャス・R・サンスティーン『NOISE〔下〕組織はなぜ判断を誤るのか?』(早川書房、2021年12月)48ページ)

サラリーマンではなく、リスペクト専門家としての弁護士になるには以下が必要。

  • (プロ弁護士としての)共通の規範
  • (プロ弁護士として)守るべき原則

そういうのが存在するとわかった。

ではどうしたらいい?

専門家はしかるべき資格認定を受け、所属する組織で専門的訓練と指導を受ける。

同上

結論が出ました。「所属する組織で専門的訓練と指導を受ける」。

弁護士なら、法律事務所に所属して専門的訓練と指導を受けるべきです。

会社ではそうした訓練・指導は期待できません。

会社には先輩や上司がいますが、そうした先輩・上司が非弁護士であれば、訓練・指導はリスペクト専門家としての弁護士になるためのものにはなりません。

法律事務所出身者の先輩・上司から訓練・指導を受けるならどうか?それなら法律事務所に行った方がいい。会社で扱う仕事と法律事務所で扱う仕事は違います。

医師は研修医として働き、若手弁護士は先輩について学ぶ。彼らは仕事に必要なテクニックだけでなく、専門家としてやっていくためのある種の方法や手続きを身につけ、また守るべき規範を教わる。プロフェッショナルが共有する規範は、どの情報を考慮すべきかから、最終判断をどのように下し、その正当性をどのように示すべきかに至るまでを示してくれる。

同上

ダメ法律事務所でクズボス弁についたら目もあてられないですが、新人弁護士が最初の就職先で会社を選んだら、上記のような仕事の仕方は全く教われない可能性が高い。

もしインハウス弁護士だらけの会社法務部で「法律事務所クオリティの仕事を教えてあげる」というところがあれば、危険なので近づかない方がいいです。

そんな法律事務所のノリで働きたいならあなたはなぜ法律事務所ではなく企業で働いているのですか?と問うべきです。スキル面では法律事務所で働くメリットは大いにあると思いますが、企業法務法律事務所の発想で働くのは私は嫌です。

(2) プロ弁護士となるには法律事務所で経験を積むべき

信頼される弁護士は、いくら才能があってもすぐには誕生しません。経験が必要です。

専門的な仕事には、規範だけでなく経験が必要だ。チェスやピアノや槍投げに卓越した才能があれば、先輩をことごとく薙ぎ倒し、神童と呼ばれることは大いにありうる。結果が能力を裏付けてくれるからだ。だが保険の引受・査定担当者や指紋分析官や裁判官は経験を積まないと信頼できない。保険の引き受けに神童はいないのである。

(ダニエル・カーネマン=オリヴィエ・シボニー=キャス・R・サンスティーン『NOISE〔下〕組織はなぜ判断を誤るのか?』(早川書房、2021年12月)49ページ)

プロ弁護士としての経験を積むには会社よりも法律事務所の方がいい。

私の知り合いの法律事務所出身でインハウスローヤーになった人に聞けば全員が法律事務所で経験を積むことは大切だと言うと思います。

会社で積むことになる経験は会社員としての経験です。

(3) 法律事務所で働いてプロ弁護士としての自信がつく

企業法務の法律事務所で働いている弁護士であれば、クライアント企業にいるインハウスローヤーから質問を受けるとこう思うことがよくあるはずです。

「この人弁護士だよな。こんなこともわからないの?自分で調べろよ」

これは法律事務所から見たインハウスローヤーに対する印象の”あるある”だと思います。

企業内弁護士は、楽したい、責任を回避したいと考える人が多い。

法律事務所の弁護士はその自堕落なリクエストを受けとめなければなりません。無能クライアントのわがままに付き合わないといけないのです。何かしらの答えを出さないといけない。

クライアントに意見を出すことでお金をもらう法律事務所の弁護士は鍛えられます。

リスペクト専門家のもう一つの特徴は、自信を持って判断を下し根拠を説明できることである。人間は、自信なげな人よりも自信ありげな人を信用するものだ。自信ヒューリスティックの存在は、集団の中では自信たっぷりの人の重みが増すことを意味する。たとえ自信を持ってよい根拠が何もなくても、だ。リスペクト専門家はつじつまの合うストーリーを作り上げる名人である。
経験を積んでいるから、すばやくパターンを見つけ、前例との類似性から推論を行い、仮説を立てて強化することができる。彼らは目にした事実を首尾一貫したストーリーにうまく嵌め込むことができ、それが自信を醸し出すのである。

(ダニエル・カーネマン=オリヴィエ・シボニー=キャス・R・サンスティーン『NOISE〔下〕組織はなぜ判断を誤るのか?』(早川書房、2021年12月)49ページ)

*****

そんなに法律事務所の方がよいなら企業ではなく法律事務所で働けばよいのではないか?と言われそうですが、本記事の論点は「最初に就職するとしたら会社と法律事務所のどちらがよいか?」であって、どちらで働くのがよいかではありません。

どの法律事務所もよい訓練の場になるとは限らず、最悪の訓練の場になる可能性も当然あります。

とはいえ、ダメ事務所に入ってしまったら転職すればよいので、企業法務をやりたい人でもまずは法律事務所に入ってみるとことをおすすめします。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

  • URLをコピーしました!

コメント

コメント一覧 (2件)

コメントする

目次