「40代になったら、弁護士の転職は厳しい」
「50代なら、もう転職先はほとんどない」
こういう話を見かけますが、私はこの言い方は違うと思います。
弁護士の転職で問題になるのは、年齢そのものではありません。その年齢で狙うポジションと、それまでに積んだ経験が合っているかです。
20代の弁護士と45歳の弁護士に、会社が同じものを求めるはずがありません。
50歳の弁護士が若手メンバー向けの求人に応募して採用されなかったからといって、「50代の弁護士は転職できない」という話にもなりません。
逆に、40代や50代まで来て、年齢に見合う専門性もマネジメント経験もないのに、「弁護士資格があるから何とかなる」と考えるのも甘いです。
見るべきなのは、何歳かではなく、その年齢までに何をやってきて、どの役割ならその経験を買ってもらえるかです。
私は法律事務所と企業の両方で働いてきましたし、周囲の弁護士が法律事務所や企業へ転職する例も見てきました。年齢だけを切り取って考えると、転職市場の見方を間違えます。
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| 年代 | 転職で先に見ること | 注意点 |
|---|---|---|
| 20代 | どこで基礎経験を積むか | 企業転職で年収を下げすぎない |
| 30代 | 何を任せられる弁護士なのか | 資格だけでなく専門性・案件経験を説明する |
| 40代 | シニア・管理職・専門職など、経験に合う役割 | 年齢ではなく求人の期待役割との一致を見る |
| 50代 | 責任者・GC・高度専門職など、何を任せられるか | 若手求人と同じ土俵で考えない |
最初に結論を言えば、弁護士転職に「○歳を超えたら終わり」という一律の年齢上限はありません。
ただし、年齢が上がっても同じ求人を狙い続けられる、という意味でもありません。
年代ごとに何が変わるのかを見ていきます。
1 弁護士転職は何歳まで、という考え方自体がずれている
採用する側が欲しいのは、「35歳の人」や「45歳以下の人」という年齢そのものではありません。
空いているポジションの仕事を任せられる人です。
若手を育成しながら使いたいポジションなら、若い弁護士が採用対象になりやすいでしょう。
一方で、法務組織を作る、部下をマネジメントする、経営陣に助言する、M&Aや重大紛争をリードする、専門分野を任せるという仕事なら、経験を積んだ弁護士が候補になります。
つまり、年齢が上がったら求人が全部消えるのではありません。
年齢と経験に応じて、見るべき求人の役割が変わります。
20代、30代、40代、50代を全部同じ「弁護士求人」という箱に入れて、応募できる求人の数だけ比較するから、「年を取るほど難しい」という雑な結論になります。
実際、企業内弁護士の年齢構成を見ても、40代以上は珍しい存在ではありません。
日本組織内弁護士協会(JILA)が2026年3月に企業内弁護士354人へ実施したアンケートでは、40歳〜45歳未満が29.9%、45歳以上が29.7%でした。合計すると、回答者の59.6%が40歳以上です。
同じ調査では、法務・知財・コンプライアンス部門の管理職が45.2%、役員・ジェネラルカウンセルが9.3%でした。
ただし、この調査は現在働いている企業内弁護士の属性を調べたもので、転職成功率を示す統計ではありません。また、年齢と役職のクロス集計でもありません。
したがって、「40代なら転職が簡単」という根拠にはなりません。
一方で、40代以上の企業内弁護士が相当数存在し、管理職やGCという役割も実際に存在していることは分かります。
出典:日本組織内弁護士協会「企業内弁護士に関するアンケート調査集計結果(2026年3月実施)」
2 20代弁護士は「若いから安心」ではなく、どこで経験を積むかを見る
20代の弁護士は、キャリアの方向を変えやすい年代です。
法律事務所から別の法律事務所へ行く。法律事務所から企業へ行く。企業から法律事務所へ戻る。
まだ経験年数が短いので、採用側も完成された専門家としてだけを見るわけではありません。
ただし、「若いから何でも有利」と考えると失敗します。
特に法律事務所から企業へ移る場合、給料を買い叩かれることがあります。
法律事務所では20代でもそれなりの年収になっている弁護士がいます。
ところが企業へ入れば、会社側の給与テーブルに乗せられる。
会社から見れば「若手社員」です。
弁護士だから法律事務所時代の年収をそのまま出してくれるとは限りません。
企業内弁護士になりたいという理由だけで、年収を数百万円落としてよいのか。ここは軽く見ないでください。
20代では「今すぐ企業へ行けるか」だけでなく、今後高く評価される経験をどこで積むかまで考えるべきです。
若手弁護士のファーストキャリアについては、司法修習生の就職先は法律事務所と企業のどっちがいい?でも書いています。
日系企業と外資系企業の給与については、外資系と比較して国内系企業は年収が低いも参考にしてください。
3 30代弁護士は「弁護士資格」から「何ができるか」へ移る
30代になると、評価の中心が変わります。
「弁護士資格があります」だけでは説明になりません。
企業法務、M&A、訴訟・紛争、労務、金融、知財、コンプライアンス、英文契約、データ・プライバシー。
何をやってきたのか。
どの程度の案件を一人で処理できるのか。
事業部と仕事ができるのか。
そこを見られます。
特に30代後半になれば、「優秀な弁護士です」という自己評価では足りません。
採用する会社が知りたいのはもっと具体的です。
この人にM&Aを任せられるのか。
海外案件を回せるのか。
重大な紛争を処理できるのか。
営業や事業部と対立するだけではなく、リスクを説明して現実的な着地点を作れるのか。
後輩を育てられるのか。
30代からは年齢よりも、「何を任せられる人なのか」を説明できる方が大事になります。
法律事務所で高く評価される能力と、会社で評価される能力も同じではありません。
インハウスを考えている人は、企業内弁護士のデメリットとメリットも確認してください。
年収については、企業内弁護士の年収相場と偏差値で整理しています。
4 40代弁護士は「転職が難しくなる」のではなく、狙うポジションが変わる
40代になると転職が難しくなる。
私は、この言い方には違和感があります。
正確には、40代になると20代や30代と同じ求人を狙う話ではなくなる、です。
たとえば、法務マネージャー、法務部長候補、コンプライアンス責任者、外資系企業のシニア法務、M&A・金融・知財などの高度専門職。
こうしたポジションでは、むしろ経験を積んできた人を採りたいという話になります。
問題は「40歳を超えたこと」ではありません。
40代向けのポジションを狙うだけの経験を積んできたかです。
法務部長候補を狙うなら、マネジメント経験を聞かれるでしょう。
部下を持ったことがあるか。
経営層へ報告したことがあるか。
重大案件を自分が前に立って処理したか。
外部法律事務所を使う側として管理したか。
法務組織の業務フローを作ったか。
高度専門職なら、その分野で何をやったのかが必要です。
それがない状態で採用されなかったとき、「40代だから不利だった」と年齢のせいにしても原因を取り違えます。
逆に、自分の経験と求人の要求が合っているなら、40代だから転職を諦める理由もありません。
インハウスに転職した後のキャリアについては、企業内弁護士のキャリアと末路|大手日系企業に行ったらこうなるも読んでください。
40代になると、「自分は転職できるか」と抽象的に考えても答えは出ません。
自分の職歴を見せて、実際にどのレベルの求人を紹介できるのかを確認した方が早いです。
法律事務所、インハウス、企業法務のどこを狙うべきかまで含めて法務専門で相談したいなら、NO-LIMITで現在の経歴を見てもらう選択肢があります。
押したら転職を決めなければならないわけではありません。まず、自分の経歴でどの役割の求人が出てくるのかを見るために使えばいいです。
5 50代弁護士も、問題は年齢ではなく「何を任せられるか」
50代も同じです。
「50歳を超えたら転職できない」と一括りにするのは雑です。
法務部長、ジェネラルカウンセル、コンプライアンス責任者、特定規制分野の専門家、重要案件を任せるシニア法務。
経験者だからこそ候補になる役割があります。
一方で、若手を前提にした一般メンバー求人へ同じ条件で応募すれば、ミスマッチは起こります。
それを全部「50代だから落とされた」と整理しても、次の応募は良くなりません。
50代なら、職務経歴書を長くするより先に、自分に何を任せられるのかを明確にしてください。
どの業界を知っているのか。
どの規制領域に強いのか。
何人の組織を管理したのか。
どのレベルの案件を主導したのか。
経営陣とどこまで仕事をしてきたのか。
海外案件をどこまで扱えるのか。
ここが求人の役割と一致するかです。
もちろん、すべての50代弁護士が部長やGCを目指す必要はありません。
マネジメントではなく、専門性そのものを買う求人もあります。
大事なのは、「50代」という数字から転職可能性を考えるのではなく、自分の経験を必要としている求人を探すことです。
どんな弁護士求人が実際に出ているのかを広く見たい人は、リーガルジョブボードで求人を確認できます。
転職するか決めていなくても、求人を見ること自体はできます。自分の経験を必要としているポジションがあるかを確認してから考えれば十分です。
6 法律事務所から企業へ移るなら、年齢より「経験の変換」が問題になる
年齢と混同されやすいのが、法律事務所からインハウスへの転職です。
法律事務所で10年働いた。
だから企業でも10年分のシニアとしてそのまま評価される。
そんなに単純ではありません。
企業では、法的に正しい回答を出すだけでは仕事が終わらないからです。
事業部との調整。
リスクの優先順位付け。
経営陣への説明。
社内での意思決定。
外部弁護士の管理。
予算。
後輩の育成。
法律事務所とは違う仕事があります。
私は法律事務所と企業の両方で働きましたが、ここはかなり違います。
法律事務所で法律に詳しい弁護士だったからといって、会社でそのまま優秀な法務責任者になるとは限りません。
逆も同じです。
会社で長く法務をやっているだけで、外部弁護士のような法的問題解決能力が身につくわけでもありません。
法律事務所から企業へ移るときは、自分の経験のどこが企業側の仕事に変換できるのかを考える必要があります。
40代で初めてインハウスへ移るとしても、「40代だから遅い」で終わらせるのではなく、法律事務所で積んだ経験のどこを企業が買うのかを見るべきです。
7 求人票では年齢より「期待される役割」を読む
弁護士が求人を見るとき、会社名と年収だけを見ると判断を間違えます。
1 メンバー・シニア・管理職のどこを採ろうとしているか
まず見るべきなのはポジションです。
若手メンバーなのか。
一人で案件を回すシニアなのか。
チームを管理するマネージャーなのか。
法務責任者なのか。
自分の年齢ではなく、自分の経験がその役割に合うかを見ます。
2 必須経験を読む
M&A、英文契約、規制対応、訴訟、コンプライアンス、知財、金融、マネジメント。
「弁護士資格必須」という一行だけを見て応募してはいけません。
その下に書かれている経験要件の方が大事です。
3 年収と責任の重さが合っているかを見る
高い年収を希望するなら、それだけ重い役割を要求されます。
法務部長クラスの給与を希望するのに、管理職はやりたくない、経営対応もしたくない、難しい案件も背負いたくない。
それでは求人との帳尻が合いません。
逆に、すでに責任の重い仕事をしてきたのに、年齢を気にして若手向け求人ばかり見ているなら、自分を安売りしています。
8 転職すべき年齢より「いつ経験を取りに行くか」を考える
年齢について考えるなら、「何歳まで転職できるか」より、今後必要になる経験をいつ取りに行くかを考えた方が役に立ちます。
20代なら、基礎となる法律実務をどこで身につけるか。
30代なら、どの専門分野を自分の看板にするか。
40代なら、専門職で行くのか、マネジメントへ行くのか。
50代なら、それまでの経験をどの役割で最も高く売れるのか。
ここを逆算します。
転職は、今の会社から逃げる手続ではありません。
次の10年で必要になる経験を取りに行く手段でもあります。
だから「まだ転職できる年齢だから動く」「もう歳だから残る」という決め方はしない方がいいです。
9 結論:40代・50代だから転職できないのではない
弁護士の転職に、「40歳まで」「45歳まで」「50歳まで」という一律の期限はありません。
20代には20代で見るべき求人があります。
30代なら、専門性や案件経験が問われます。
40代なら、シニア、専門職、マネージャー、責任者候補など、自分の経験に合った役割を見る。
50代でも、部門責任者、GC、高度専門職など、経験そのものを前提にする役割があります。
ただし、年齢とともに市場価値が自動的に上がるわけでもありません。
40代なら40代までに何を積んだか。50代なら50代までに何を任されてきたか。
結局ここです。
年齢だけ見て転職を諦める必要はありません。
一方で、弁護士資格だけを見て「どこかには行ける」と考えるのも違います。
自分の経歴と求人の役割を照らし合わせてください。
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