弁護士は、法律事務所という特異な組織にいてこそ、その社会的地位を保てると考える人は多いと思います。
それでも、法律事務所から企業内弁護士・インハウスへ転職する弁護士はいます。
理由は、きれいごとではありません。
大きいのは、ワークライフバランスと、ビジネスの現場に近いところで働きたいという欲求です。
企業内弁護士になった理由の上位は、以下の2つです。
- ワークライフバランスを確保したかったから(約52.3%)
- ビジネスの現場に近いところで仕事がしたかったから(約49.4%)
約半数の弁護士が、この2つの理由でインハウスを選んでいます。
本記事は、慶應義塾大学法科大学院の奥邨弘司教授の「数字で見る組織内弁護士」(法律のひろば2019年6月号)をベースに、法律事務所から企業へ移る弁護士の転職理由を整理します。
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| 転職理由 | 実際の意味 | 注意点 | 本文 |
|---|---|---|---|
| ワークライフバランス | 法律事務所の長時間労働・精神的負荷から離れたい | 企業も短時間労働とは限らない。ただし法律事務所よりは生活が安定しやすい | 1 弁護士にもワークライフバランスは大事だ |
| ビジネスの現場に近い仕事 | 外部専門家ではなく、社内の一員として事業に関わりたい | 会社に入れば必ず経営やビジネス中枢に近づけるわけではない | 2 弁護士もビジネスの現場の近くで自分の力を活かしたい |
| 法律事務所への疲れ | タイムチャージ、売上、パートナー、クライアント対応の負荷から離れたい | 会社法務部には、別のぬるさ・評価されにくさがある | 3 法律事務所でのストレス |
| インハウス転職後の満足 | 生活の安定や業務内容に満足する弁護士は多い | 成長実感・社内評価・年収面で不満が出る人もいる | 4 企業内弁護士の満足度は高い |
インハウス転職を考えるなら、転職理由だけで決めるべきではありません。
年収、社内での扱われ方、法務スキルの伸び方、将来のキャリアまで確認してください。
弁護士・インハウス転職を具体的に考える人は、NO-LIMITなど弁護士・法務向け転職エージェントも確認しておくべきです。
| この記事の内容 | 移動先 |
|---|---|
| ワークライフバランスを理由にインハウスへ行く弁護士 | 1 弁護士にもワークライフバランスは大事だ |
| ビジネスの現場に近いところで働きたい弁護士 | 2 弁護士もビジネスの現場の近くで自分の力を活かしたい |
| 法律事務所でのストレス | 3 法律事務所でのストレス |
| 企業内弁護士の満足度と注意点 | 4 企業内弁護士の満足度は高い |
| インハウス転職前に確認すべきこと | 5 インハウス転職前に確認すべきこと |
1 弁護士にもワークライフバランスは大事だ
激務の法律事務所からインハウスへの転職を決断した多くの弁護士は、ワークライフバランスを手に入れて幸福度を高めることに成功しています。
(1) 弁護士が平和な生活を求めて企業に向かう
現在の勤務先を選んだ理由(JILA調査:問6:複数回答可)の第1位は次のとおりです。
「ワークライフバランスを確保したかったから」52.3%
調査を開始した2013年からの平均が52.7%、ほぼ毎年(2016年を除いて)回答順位第1位の回答である。
みんな法律事務所、特に企業法務系のブラック職場に嫌気がさしているのです。
パートナーやボス弁のストレスよりも、会社の上司のストレスの方がまだ耐えやすい、という人もいます。

弁護士の職場として、企業と法律事務所のどちらの方が働きやすいのか。 企業に入ってから「上司のパラハラに遭っている」といっている知り合いの弁護士もいます。 しか…
(2) 多くの弁護士は転職で成功している
法律事務所から出た弁護士の末路はどうなっているのでしょうか。
大まかにいえば、多くはうまくいっています。
実際に働き始めてどう感じたか。現在の仕事に対する満足度(日弁連調査:Q30)について、ワークライフバランスに関する回答結果は次のとおりです。
「大変満足」「やや満足」計81.1%
この結果を踏まえて奥邨教授もこう述べています。
就職時の希望どおり、またはそれ以上にワークライフバランスは実現しているものと思われる。
なお、勤務実態を見てみると、休日出勤について「ほとんどない」とする者が、調査開始以来の平均で81.1%にのぼる(JILA調査:問7)。
(3) 法律事務所よりインハウスははるかに幸せ
会社がワークライフバランス天国というわけではありません。
ざっくり比べると、企業内弁護士の残業時間は、一般のそれとほぼ同レベルにある
企業内弁護士は、別に短時間労働をしているわけではありません。
普通の日本のサラリーマン程度には働いています。
それでも満足しているのは、法律事務所での職場環境がトラウマのように印象に残っているからでしょう。
世間一般と比べて特に勤務時間が短いわけではないのに、ワークライフバランスが高い評価となっている一因としては、企業内弁護士の6割前後が勤務経験を有する法律事務所の勤務を比較対象としていることが考えられる。
(4) ワークライフバランスは幸福度に大きく影響する
ワークライフバランスは、「就職先に希望するポイント」程度の軽い話ではありません。
生活と健康に関わるものです。ワークライフバランスは、本来なら最低限の条件です。
「そんなものはないと思え」と平気で言える人の多い職場は、狂気の職場です。
「ワークライフバランスを大事にしたい」と人に言うのははばかられる。恥ずかしい。そう感じる気持ちは理解できます。
タフであることが仕事のできる社会人の重要ポイントであり、長時間労働やきつい仕事を避けるのはダメ人間と宣言しているように感じられるからです。
しかし、そのような狂った思想が蔓延する職場は、さっさと辞めるべきです。

今、仕事がとても辛い人はそのまま続けてよいことがあるのでしょうか。 きつい仕事を続ける理由が良くないものであるならば辞めるべきです。 きつさがなくなれば、その…
2 弁護士もビジネスの現場の近くで自分の力を活かしたい
外から表面的なコメントを提供するだけでなく、自分の働きがどのように役立っているのか見てみたい。
これは多くの専門家が思うことです。弁護士も思いますし、コンサルタントも同じ理由で事業会社に転職する人がたくさんいます。
(1) ビジネス直結で力を発揮したいと思う人は多い
企業内弁護士となった理由として、次の回答があります。
「現場に近いところで仕事がしたかった」49.4%(調査開始以来の平均)
ほぼ毎年(2016年を除く)回答順位第2位の回答である(JILA調査:問6:複数回答可)。回答順位第1位の「ワークライフバランスを確保したかった」の平均値52.7%と比較しても、それほど大きな差はないということができるだろう。
これは、私が法律事務所からインハウスへ転職するときに転職理由として答えていたものです。
私だけではなく、多くの弁護士が同じことを感じています。
なお、以上の傾向は、普段学生に接していて、彼・彼女らから聞くところとも整合しているように思われる。学生達の多くも、一般的な傾向を反映して、ワークライフバランスを重視しているが、一方で、それと同程度以上に、彼・彼女らは、法律専門家としての自分の能力を、ビジネスの現場で試してみたいとの思いを強く持っている。
(2) インハウス転職した弁護士の約7割は業務内容に満足している
では次に、実際に働き始めてどう感じているかを見てみよう。
現在の仕事に対する満足度(日弁連調査)を問われて、業務内容について「大変満足」「やや満足」と答えた者の割合は次のとおりです。
2017年(Q31) 71.4%
2019年(Q30) 68.5%
ワークライフバランスに対する満足度に比べれば、数字は低いが、約7割の企業内弁護士が肯定的評価をしていることは注目できよう。なお、参考までであるが、内閣府のワークライフバランスに関する調査で、仕事に対する満足度を「満足している」「やや満足している」と答えたのは、正社員の場合で計40.5%であることと比較すれば、7割という数字の意味はい小さくないと思われる。
これは注目すべき数字です。
多くのインハウスローヤーは、業務内容にも一定程度満足しています。
また、将来のキャリアに対する期待と不安を尋ねる設問(日弁連調査:Q38)では、以下の各選択肢も7割以上が肯定的に回答しているようです。
- 「ビジネスを遂行する過程に関わる中で、ビジネス活動の一翼を担う者として成長できる」
- 「自分の知識・経験・専門性を仕事に活かすことができる」
- 「その業種特有の専門性を高めることができる」
- 「企業をめぐる法務問題全般を見ることができるので、企業法務専門家としてバランスのとれた経験を積むことができる」
- 「法律外の問題や社内調整など法的業務以外の仕事も担う中で成長できる」
3 法律事務所でのストレス
インハウスローヤーの高い満足度は、法律事務所勤務での不満・ストレスの裏返しです。
特に企業法務の法律事務所では、これが顕著でしょう。
弁護士の仕事は、細かく難しい案件をクライアントから引き受け、高い対価を請求するものです。
当然、大変です。
『ブラック職場があなたを殺す』の著者ジェフリー・フェファー教授は、法律事務所について次のように指摘しています。
法律関係の職業も、長時間労働になりやすい。彼らは働いた時間だけ顧客に請求できるからだ。長時間働いて、その分を請求すれば、法律事務所にとっては利益が膨らむ。
このタイムチャージ制度は、極めてストレスフルな仕組みです。
弁護士は、タイムチャージで儲けられるいい仕組みだと考えているかもしれません。
しかし、自分の時間を切り売りして、自らを不幸にするシステムでもあります。
それに自ら気づかないのがおそろしいところです。
また、弁護士の報酬は高い。しかし、それに見合うサービスを提供できているかはわからない。
それでも請求しないとやっていけない。
これは真面目な弁護士には辛い構造です。
これについて、北野唯我『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』(ダイヤモンド社、2018年)では次のように表現されています。
「自分が信じていないものを売る、これほど人の心を殺す行為はないんだ。そのひとつの商品を売るために、本当に多くの小さな嘘をつかないといけないからな。そして人は小さな嘘をつき始めると、やがて自分の心をその嘘に合わせるようになる。そうやって、人間の心は死んでいく。」
弁護士は、「1回案件をやれば、その道の専門家と名乗れる」と平気で言うことがあります。
自分があまりわからないことでも、クライアントに「わかりません。できません」と言うのが苦手です。
「すみません。私の助言はイマイチでした」と言える人も少ないです。少ないというか、ゼロかもしれません。
自分や自分の所属する法律事務所の法務サービスに自信を持てないまま、クライアントに提供し続けるのは心労がたまります。
自分が売上を上げなければならない立場になれば、なおさらです。
4 企業内弁護士の満足度は高い
多くの弁護士が法律事務所での辛い勤務を経て、インハウスへの転職を決断し、成功しています。
その結果、平和で安定した生活を得られています。
これは幸福度に大きく影響します。
ただし、会社法務部のぬるま湯環境に不満を持つ人もいます。
「法務部は楽だけど楽しくない。成長も全くない。法律事務所で大変な仕事をやってきた自分が、何もやっていないプロパー社員と同じ評価なのは納得できない」
こういう人も少なからずいます。
その気持ちは私もわかります。知り合いのインハウスローヤーから聞いたこともありますし、法務専門転職エージェントからも、そういう不満を持つ人は多いと聞きました。
これはインハウスローヤーのデメリットです。
私個人の実感としては、法律事務所と会社を比べると、全体的に見て会社の方が合っています。
ただし、インハウスにもデメリットはあります。

私は法律事務所と会社の両方で勤務したことがあります。 法律事務所にも会社にも法務の知り合いがいます。 法務専門の転職エージェントともよく話します。 こうした経験…
5 インハウス転職前に確認すべきこと
法律事務所からインハウスに移る理由として、ワークライフバランスとビジネスの現場に近い仕事は、かなり自然です。
しかし、その理由だけで転職先を決めると失敗します。
インハウス転職では、少なくとも以下を確認してください。
- 年収がどの程度下がる、または上がるのか
- 弁護士資格が待遇や役割にどう反映されるのか
- 法務部内で弁護士がどう扱われているのか
- 法律事務所出身者が定着しているのか
- 国内法務中心か、海外案件もあるのか
- 契約審査中心か、M&A・訴訟・規制対応・コンプライアンスもあるのか
- 外部弁護士に丸投げするだけの法務部ではないか
- 法務部長・GC・管理職への道があるのか
年収が気になる人は、企業内弁護士の年収相場も確認してください。
日系大企業のインハウスに行った後のキャリアも、事前に考えておくべきです。
企業内弁護士のキャリアと末路|大手日系企業で弁護士資格は評価される?
また、年齢によって転職市場での見られ方は変わります。
弁護士・インハウス転職を具体的に考える人は、NO-LIMITなど弁護士・法務向け転職エージェントも確認してください。
インハウスに行きたい理由が整理できたら、次は弁護士向けに求人を確認する段階です。
法律事務所からインハウスに行くなら転職エージェントはどこ?弁護士向けに比較
6 まとめ:弁護士がインハウスへ転職する理由は、生活と仕事の実感にある
弁護士が法律事務所から企業内弁護士へ転職する理由は、単なる逃げではありません。
ワークライフバランスを確保したい。
ビジネスの現場に近いところで仕事がしたい。
法律事務所のタイムチャージ、長時間労働、売上プレッシャー、クライアント対応から距離を置きたい。
これらは、かなり現実的な転職理由です。
実際、インハウスに転職した弁護士の多くは、ワークライフバランスや業務内容に一定の満足を感じています。
ただし、インハウスは楽園ではありません。
会社法務部には、弁護士資格が評価されにくい、法務スキルが伸びにくい、社内出世が見えにくい、年収が伸びにくいといった別の問題があります。
インハウス転職を考えるなら、「なぜ企業に行きたいのか」だけでなく、「その会社で自分はどう扱われるのか」まで確認してください。
弁護士・インハウス転職を考える人は、NO-LIMITなど弁護士・法務向け転職エージェントで、自分の経験に合う求人を確認してください。

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