転職面接は第一印象で決まる | 面接官が気づかない勘違いと判断の方法

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転職面接で、最初の印象はインパクトが大きいです。

とても大きい。

採用するか否かの評価の基準として後々まで響きます。

第一印象で人は相手のことをかなり評価してしまいます。心理的にこれは避けられません。

そのため第一印象で重要なことは明るい感じを出すことです。

目次

1 面接で第一印象が重要なのは事実である

採用面接で第一印象が重要なのは都市伝説か何かではないのか?

面接官は第一印象だけでなくてもっとよく見ているのではないのか?

どちらも答えはNo。

面接官は、第一印象だけで決めているわけではないかもしれませんが、第一印象は知らず知らずのうちに採用面接において決定的な役割を担っている可能性が高い。

採用の決定は第一印象に左右されがちだ。この点についてはデータの強力な裏付けがある。

ダニエル・カーネマン=オリヴィエ・シボニー=キャス・R・サンスティーン『NOISE〔下〕組織はなぜ判断を誤るのか?』(早川書房、2021年12月)153ページ
著:ダニエル カーネマン, 著:オリヴィエ シボニー, 著:キャス R サンスティーン, 翻訳:村井 章子
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行動経済学者の大物であるカーネマンやキャス・サンスティーンの書籍では普通の採用面接の問題点について厚く述べられています。

その中で第一印象の重要性についても説明されています。

採用面接で第一印象はどういう役割を果たすのか。

第一印象が形成されるのは、ほとんどの場合、面接冒頭のくだけた会話による雰囲気作りの段階だ。そう、面接官がやさしく話しかけ、緊張する相手をくつろがせようとする最初の二、三分である。ここで形成される第一印象が、往々にして決定的な役割を果たすことになる。

同上

本論に入る前のなんとなく雑談する時間で第一印象は固まり、その後の面接と採用決定過程に影響を及ぼすのです。

2 面接官は「人を見抜ける」と思い込んでいる(勘違いしている)

採用面接だけで応募者を適切に評価するのは極めて難しいです。

心理学者の出した結論は、「面談で人を見抜くのは無理」というものです(転職時の採用面接に意味はない | 面談で人は見抜けない)。

しかし、採用の現実は違います。面接を重視します。

なぜ重視するかというと、採用担当者が重要だと思い込んでいるからです。

これが大事です。応募者としては、自信過剰で思い上がりの強い面接官の勘違い心理を利用すべきです。

そんな自信過剰な面接官は、どうやって人を見極めているのでしょうか。

それは「なんとなく」「雰囲気」です。

そのなんとなくの印象を強烈に形成するのが第一印象です。

前述したとおり第一印象でかなり決まる。 

人材紹介会社の担当者の多くは、第一印象でその人がどんな人か、ほぼわかるといいます。

(東京ガス都市生活研究所『人は見かけで選ばれる』(中経出版、2002年2月)19ページ)

人材紹介会社(転職エージェント)は、たくさんの転職希望者と面接しています。その担当者の多くは「第一印象でほぼわかる」と自信を持っています。

面接をたくさんやっているプロは、それだけ自信をもって勘違いしているのです。

「○○人と面接をしてきた私には人を見る目がある」と。

第一印象でどのようなことがわかると思い込んでいるのでしょうか。

以下は人材紹介会社に実施したアンケート調査の結果です。

東京ガス都市生活研究所『人は見かけで選ばれる』(中経出版、2002年2月)24ページより

人材紹介会社の担当者は、驚くべきことに第一印象で多くのことがわかるといいます。

私には大いに疑問です。

  • 人柄って会ってすぐわかるんですかね。
  • 常識度ってなんやねん。面接官の物差しを勝手に当てはめるだけですよね。第一印象で何がわかるのだろう。
  • 転職意欲は、本人にもよくわからなかったりする。なぜ見知らぬ他人がすぐに理解できるのか。
  • 面接の合否。これは、採用担当者も同じように雰囲気で決めてるから、自信過剰な面接官同士の感覚のようなものかもしれません。
  • 頭のよさもわかると。「第一印象で頭のよさがすぐわかる」と豪語する人には面接官やってほしくないですね。
  • なんで向く職種が会ってすぐにわかるのか。

転職エージェントの傲慢っぷりがよく出た腹立たしいアンケート結果です。 

「自分は人を見る目がある」との思い込みを修正することなく、面接を繰り返して確証バイアスをもって自信過剰を倍加させていく仕事の仕方をしているので、転職エージェントの思い込みは職業病かもしれません。

転職エージェントの方は、「面接で人を見抜ける」という思い込みには重々注意し、謙虚であるべきです。

転職エージェントの思い上がりへの不満はこれくらいにしておいて、この思い上がりをどう利用するかを考えます。

面接の”プロ”は、他人のことは第一印象でわかると思い込んでいる。

応募者としてはこれを利用しない手はありません。

第一印象を活用しましょう。

3 人を判断する印象は自動的にすぐに形成される

人の顔を見て何かしらの印象をいだき、その印象に基づいて人を判断する。

これは無意識に、自動的に、即座に実行されます。

判断を下すのに必要な情報を得るには、これらの顔を10分の1秒見つめるだけでいい。人は他者の印象を抱かざるをえないのだ。こうした印象は思考よりも知覚に近く、考える必要はない。ただ見るだけで浮かんでくる。

(アレクサンダー・トドロフ『第一印象の科学――なぜヒトは顔に惑わされてしまうのか?』(みすず書房、2019年1月))

まさに「考えるな、感じろ」の世界です。

ただ、考えるべきことなのに、考える前に感じてしまうのが問題です。

採用面接で大事なのは、「直感で感じたままで良しとするな、よく考えろ」のはずです。

面談で人は見抜けないからです。 

しかし、人は顔を少し見ただけで相手の性格等の特徴を勝手に推測してしまいます。

現代社会心理学の創設者のひとりであるソロモン・アッシュは1946年に次のように記した。「誰でも人を見ると、相手の性格に関する特定の印象が即時かつ自動的に浮かんでくる。高度に複雑なことに関する物語を導き出すには、ほんの一瞥、ほんの数語の会話で十分だ。そうした印象は、驚くほど素早く、かつ労せずに形成されることがわかっている。」

……アッシュが言うように、印象は勝手に知覚に刻み込まれる。少なくとも、そのように見受られる。印象にそなわる主観的な説得力というこの性質こそ、たとえ矛盾する証拠があったとしても、印象を信頼してしまう大きな理由なのだ。

(『第一印象の科学――なぜヒトは顔に惑わされてしまうのか?』3ページ)

人は顔だけを見て拙速に他人を評価してしまう。

そんな習性を利用して、プリンストン大学教授のアレクサンダー・トドロフは、「顔つきに基づく第一印象で米国の重要な選挙結果が予測できるかどうかを調べた」ところ、「第一印象は驚くほど正確に当選者を言い当てていた」。

一言で言うと、より有能に見える政治家のほうが、選挙に勝つ公算が高いのだ。

(同上)

政治家の顔写真を基にした選挙結果の予測は、以下の国でもあたったそうです。

  • ブラジル
  • ブルガリア
  • デンマーク
  • フィンランド
  • フランス
  • イタリア
  • メキシコ
  • イギリス
  • 日本

転職面接では見た目を整えよ【知らないと損する突破のコツ】というアドバイスは、こうした人間の判断の仕方を基礎にしたものです。

4 面接の第一印象を重視して何が悪いのか

採用担当者で自分の人を見る目に自信のある人は、「第一印象は大切です」とドヤ顔で語ることでしょう。

採用担当で面接を数多くやっているからといって人を見る目が磨かれるとは限らないと思うのですが、そうした私の意見はさておき、直感や第一印象はむしろ重視すべきという意見もたくさんありそうです。

採用担当者からすれば、自分の直感を使えない不自由な手続きなんか誰もやりたくないわけです。「私は見る目がありますよ」と言って、自分の好きなように「この人だ」と思った人を推薦したい。

それの何が悪いのか?

これについては、カーネマンらが答えています。

第一印象で判断して何が悪いのか、とお考えの読者もおられよう。たしかに、第一印象で得られる情報には有意義なものもある。それに大方の人は初めて会った人を第一印象で判断するものだ。となれば、経験豊富なその道のプロの面接官が第一印象で判断してもよさそうに見える。

ダニエル・カーネマン=オリヴィエ・シボニー=キャス・R・サンスティーン『NOISE〔下〕組織はなぜ判断を誤るのか?』(早川書房、2021年12月)153ページ

書籍の中でこのように書くということは、第一印象重視派がいかに多いかということの現れです。カーネマンらはそうした思い込みの激しい人が多数いることを書籍執筆段階で見越していたのです。

そんなカーネマンらの説明は以下のとおり。

面接の最初の数分では、あきらかに表面的な情報しか得られない。しかもその大半は候補者の外向性とコミュニケーション能力で決まってしまう。握手の印象でさえ、最終判断に影響をおよぼす。アメリカ人はがっちり握手することを好むが、それが自分の判断に影響することを自覚している面接官はほとんどいない。

同上

第一印象に含まれる情報は、採用面接という場で得るべき必要情報が全然含まれていないのです。

それでもその第一印象に含まれる情報を面接官は過大視してしまいますが、当の面接官はそれに気づいていない。

5 面接官が第一印象を重視してしまう3つの心理的理由

なぜ面接官は第一印象の虜になってしまうのでしょう。

人間の心理からして第一印象重視になってしまうのは避けがたい。

(1) 面接冒頭を重視する初頭効果が発動するから

第一印象が面接で重要なのは、人の認知の仕方がそうなっているからです。

人は、対象となる人を見るにあたり、最初にその人を観察して得た情報が、その後の情報を解釈したり記憶したりするときに影響を及ぼすからです。

人は、他人を認識するにあたり、最初に自分の中でイメージを作り上げます。

これが、不正確であろうとなんだろうと後々までその人の判断をする際に基準となってしまいます。

このように以前の印象が強すぎて不正確なイメージをつくり上げ、人の判断をまちがった方へ導いてしまう現象を初頭効果(primacy effect)と呼びます(ハイディ・グラント・ハルヴァーソン『だれもわかってくれない 傷つかないための心理学 (ハヤカワ文庫NF)』(早川書房、2020年2月)47ページ)。

この初頭効果は絶大です。

一度つくられてしまった印象をあとから変えることは大変困難であり、だからこそ第一印象を正しくすることが大事

(同上・52ページ)

当然ながら、転職面接でもこの初頭効果は発動されます。

第一次面接の冒頭で形成された第一印象は、その後一次面接が30分か1時間か続く中で生き続けるだけでなく、その人を二次面接に進めるかの判断、はたまた、内定を出すかの判断まで影響します。

そして、判断者は、その初頭効果の影響を受けていることに気づいていません。

(2) 面接官は第一印象をベースにして面接を進める

面接官は、面接冒頭早々に応募者の第一印象からその人の人物像を頭の中で描きます。

この第一印象によって面接官は好きなように面接を進めてしまいます。

面接では面接官は自分の好きなように話の流れを自由に操作できる……。そこで、第一印象を確かめるための質問を連発しやすい。たとえば候補者が内向的で口下手だと感じたら、過去にチームで働いた経験はあるか、チームの中でうまくやっていけたかといったことをしつこく質問するかもしれない。一方、外交的で陽気な印象の候補者にはそうした質問を省略するだろう。すると、応募者によって集める情報が同質でなくなってしまう。

ダニエル・カーネマン=オリヴィエ・シボニー=キャス・R・サンスティーン『NOISE〔下〕組織はなぜ判断を誤るのか?』(早川書房、2021年12月)154ページ

第一印象が良いと、面接官からすれば応募者はとても良い人材に思えます。

そうするとハロー効果が働き、有能な人材に見えてきます。

そうした印象に基づいて「この人はきっと優秀で人格者に違いない」と仮説を立て、その仮説を裏付けるための質問を繰り出します。

そして、応募者の回答の中から、その仮説を裏付ける部分だけを都合よく取り出して仮説を強化していきます。確証バイアスが強力に働いて、第一印象が強化されていくのです。

逆に第一印象が悪かったらどうなるか?

「この人は感じ悪いな」と思えば、「仕事もできないんじゃないか?」と思う。

そして、前の職場で仕事ができなかった、あるいは人付き合いが悪かったのかもと疑い、それを訊ねるような質問を繰り出し、ネガティブな裏付けを強化する答えを得ようとする。

こうなったら悪い第一印象を与えてしまった応募者には挽回は難しくなります。

第一印象は、面接官による自由な面接進行を支配してしまっている可能性があるのです。

面接官が履歴書とテストの成績からすでに候補者に対して好印象または悪印象を抱いている場合の面接時の行動を追跡したある調査によると、好悪を問わず第印象が面接のやり方に重大な影響を与えることが確かめられた。たとえば好印象を抱いている面接官は、候補者に対する質問を減らし、むしろ会社を候補者に「売り込む」傾向があるという。

同上

第一印象がよければ、面接官は応募者に「ぜひ入社してください」とまで言うのです。

(3) 第一印象とつじつまの合う人物像を面接官は勝手に作ってしまう

第一印象で得られる情報は限られています。

しかし、その限られた情報を面接官は重視し、その第一印象と整合性のある人物像を作り上げてしまいます。

面接官には目の前にいる候補者についてつじつまの合った像を形成しようとする傾向がある

ダニエル・カーネマン=オリヴィエ・シボニー=キャス・R・サンスティーン『NOISE〔下〕組織はなぜ判断を誤るのか?』(早川書房、2021年12月)154ページ

どういうことか?

面接官は応募者の第一印象を持つと、その後の面接での応募者の言動を、第一印象にそぐうものにしようと勝手に思い込んでしまうのです。

以下具体例です。

ある採用面接の例。

財前さんというファイナンス系人材が、太陽興産株式会社という会社に応募しました。

太陽興産では、2度の面接が実施され、それぞれ面接官AさんとBさんが1人で応募者財前さんと面接しました。

財前さんは、前職でCFOを務めていましたが、数か月で辞めています。

数か月で辞めた財前さんの理由は「社長と戦略的に意見が合わなかったから」というものです。

財前さんと面接をしたAさんとBさんでは、以下のとおり財前さんの評価が分かれました。

Aさんの財前さんに対する評価Bさんの財前さんに対する評価
「社長と意見が合わずにすぐに会社を辞めたのは、勇気と誠実さの現れだ」「すぐに辞めるなんて融通のきかない未熟な性格の持ち主だからだ」

同じことを面接で聞いているのに、なぜこんなに評価が食い違うのでしょうか。

この違いは、第一印象の違いによるものです。

Aさんの財前さんへの第一印象Bさんの財前さんへの第一印象
好意的悪い

第一印象が違えば、しゃべる内容も違って聞こえるのです。

ここで学ぶべき教訓は、こうだ。候補者についての判断を事実に基づいて下しているつもりでも、実際にはその前に形成された印象に基づいて事実を解釈しているのである。

ダニエル・カーネマン=オリヴィエ・シボニー=キャス・R・サンスティーン『NOISE〔下〕組織はなぜ判断を誤るのか?』(早川書房、2021年12月)155ページ

6 面接での印象は後まで残る

東京ガス都市生活研究所『人は見かけで選ばれる』(中経出版、2002年2月)20ページより

上記の人材紹介会社の担当者に対して実施したアンケート結果によれば、「第一印象は変化する」と答えた人は、17.5%にすぎません。

第一印象は変化なくそのまま残る、というのが多数派です。

なぜ第一印象は修正されずに残るのか。

それは、修正しないのが楽であり、修正は苦しい作業だからです。

人にとって第一印象を形成するのは簡単で楽です。第一印象を修正して人に対する評価を再構成するのは困難で大変な作業です。

人の世界の認識は、”とにかく省エネで楽をしたがる”という癖があります。人は誰しも心理的怠け者です。

この怠け心が発動するのが第一印象です。

せっかく築いた第一印象という絵を描き直したり修正するのを人は通常嫌がるのです。

最初の印象を修正するのは容易ではなく、努力を要し、自動的には行なわれません。したがって認識する側には、相手を理解しようとするエネルギーと時間のほかに、それを行なうためのモチベーションが必要になります。

 (ハイディ・グラント・ハルヴァーソン『だれもわかってくれない 傷つかないための心理学 (ハヤカワ文庫NF)』(早川書房、2020年2月)95ページ)

転職で大事な採用をするのだ、いい人を取るぞ!と頑張る人は多いと思いますので、努力して第一印象についてあれこれ考える人は少なからず多いと思います。

しかし、その印象を変えるのは認識者にとって骨の折れることであるということは応募者は知っておいてしかるべきです。

人とよいコミュニケーションを持ちたいとき、あるいはよい印象を相手に与えたいと思うときには、「フェーズ1」の段階(*注)で適切なシグナルを発する努力が大事です。初めに正しい印象を与える方が、あとで修正するよりもはるかに簡単で望ましいからです。

(ハルヴァーソン・同上97ページ)

 *人間の認識には、2段階あり、フェーズ1とフェーズ2がある。フェーズ1は、自動的、無意識に簡単にすぐ形成される人の認識。フェーズ2は、意図的、意識的に、よく考えて形成される人の認識。

 ▼面接官の心理に訴えるアピール方法

7 悪い印象は特に残りやすいー否定性へのバイアス

面接で第一印象は大事です。

なぜなら初頭効果が発動するから。

また最初の印象は変わらず後まで残る。

さらに、大事なことは、最初の印象が悪いと、その悪い印象は残りやすい。

転職採用プロセスは短期決戦です。

最初に悪い印象を持たれたら修正の機会はないまま敗退になる公算大です。

最初の「Aさんの成績が悪い」という情報を得れば、「そうか。Aさんは能力がないのだな」という印象を作り上げ、さらに次のように考える。「そういえば話し方もあまりすっきりしない、たしか彼はこの間計算間違いをしていた、やっぱり数学の能力がない」などとそれに合致した説明を思い浮かべてしまう。そうなるとあとで最初の情報が間違っていたと聞いても、自分で作り出した枠組みが独り歩きしてしまう。

(岡本 真一郎『悪意の心理学 – 悪口、嘘、ヘイト・スピーチ (中公新書)』(2016年7月)) 

採用面接で面接官が最初に応募者に良くない印象を抱くとどうなるか。

その印象を基礎にして、印象に合うような付随情報をどんどん仕立てていきます。

「確かにこの人は感じが悪い話し方をするな。コミュニケーション能力が低いかも」

このように悪い印象を誤って抱いた場合は、とくにやっかいである。というのは、実験によると悪印象はとくに残りやすいからである。これを否定性へのバイアス(bias:偏り)と呼ぶ。新聞などである人の犯罪の嫌疑が報道された場合、それがあとで誤報であったことが分かっても、その人の名誉が完全には回復されない可能性がある。

(岡本 真一郎『悪意の心理学 – 悪口、嘘、ヘイト・スピーチ (中公新書)』(2016年7月)) 

採用面接の後で、悪い印象を持ったのがただの誤りだったとしても、時すでに遅し。

第一印象は変わりにくく、さらに悪い印象は残りやすい。

8 採用は第一印象が塗り固められるプロセス

転職のプロセスでは、とにかく第一印象を悪くしないことが肝要です。

採用面接で権限ある人の第一印象が良ければ、後はベルトコンベヤーに乗って最終決定まで進むことになる可能性が高いです。

私達はみな、初対面の人に会うときは、第一印象症候群にかかってしまう。私達は第一印象をアンカーとしてあまりにも頼りすぎてしまうため、後になって自分の見解を正しく調整する機会が訪れても、あまりうまく調整できない(Dougherty, Turban, & Callender, 1994)。

(マックス・H. ベイザーマン=ドン・A. ムーア『行動意思決定論―バイアスの罠』(白桃書房、2011年7月)53ページ)

「アンカー」とは、船を固定するための錨(anchor)のことであり、基準という意味で使われます。

第一印象は、他人判断の基準として固定化されます。

本来、第一印象が良いだけでは他人の評価は十分にはできないはずです。

それゆえ、転職時の採用面接に意味はない | 面談で人は見抜けない。

しかし、人は、いったん受けた第一印象を過大に重視し、それがアンカーになってしまいます。

そして前記5書いた通り、第一印象は修正されにくい。

修正されにくいだけでなく、かえって強化されます。

人はものごとのつじつまを合わせようとする傾向があるため、最初に与えられた限られた証拠に基づいて早い段階で印象を形成してしまい、以後はその予断の正しさを裏付けようとしがちだ。

ダニエル・カーネマン=オリヴィエ・シボニー=キャス・R・サンスティーン『NOISE〔下〕組織はなぜ判断を誤るのか?』(早川書房、2021年12月)40-41ページ

なぜこのように第一印象を重視してしまうのか。

それは確証バイアスが働くからです。

つまり、人は自分の期待や仮説に合致するような情報を探し、自分の仮説を強化していきます。

採用で「この人いい!」と思ったら、その人のいい所ばかりが後から目に入ってくるのです。

「○○大学を出てるのか!賢いと思ったんだよな。こんな職務経験もある。やはり当社に向いている」

と自分の第一印象の思い込みを強めていきます。

私達はそれを疑わざるを得ない明白な嫌疑がある場合を除いては、肯定的な情報を無批判に受け入れてしまう。もし自分の考えに疑問を投げかけざるを得ないような事実を見つけたときには、私達は随分と違った問いかけをする。「どうしてそれを信じなければいけないのか」と。つまり私達は、そのやっかいな情報を無かったことにすることができないだろうかと考えるのである。

(マックス・H. ベイザーマン=ドン・A. ムーア『行動意思決定論―バイアスの罠』(白桃書房、2011年7月)46ページ)

つまり、自分の考えに合う情報は「やはりそうだよね」と疑わずに丸のみする。

逆に自分の考えに合わない情報は「本当にそうなのか?」と疑ってかかる。

転職面接で採用を決める人は、人間である以上こうした考え方の傾向を持っています。

他人を評価するにあたっては、第一印象を過大視する傾向は良くありません。

したがって、判断プロセスの早い段階で不必要な情報が紛れ込まないようにすることが重要である。

ダニエル・カーネマン=オリヴィエ・シボニー=キャス・R・サンスティーン『NOISE〔下〕組織はなぜ判断を誤るのか?』(早川書房、2021年12月)41ページ

採用担当の面接官は、自分が第一印象によって大きな影響を受けているものと考えなければいけませんし、第一印象が強くなるような質問も避けるべきかもしれません。

応募者は、面接官が第一印象から受ける影響が大きいことを逆手に取って自分に有利に活用することができます。

採用面接という判断プロセスの早い段階で、自分という応募者を判断するのに不必要な情報を面接官に与えればいいのです。

9 転職面接の印象を良くするには

面接対策として、スキンケア、ヘアケアを日頃から丁寧にしておきましょう。

また、面接当日はきちんと清潔感ある身だしなみで臨みましょう。

別記事転職面接では見た目を整えよ【知らないと損する突破のコツ】を要チェック。

内面的にアピールすべき項目は以下のとおりです。

(i) 人間的な温かみを示す

  • 相手に関心を払う
  • 共感を示す
  • 自分が先に相手を信用する

(ii) 有能であることを示す

  • 意志の力があることを示す
  • 自信過剰に陥らずに謙虚さを示す
  • 潜在的な可能性を強調する

(iii) 温かみと有能さは相反する。道徳性を伝える

詳しくは以下記事をお読みください。

10 転職面接では最初の挨拶を感じ良く大きな声で

最後に、転職面接の第一印象を良くする簡単な技として、感じの良い挨拶をあげておきます。

面接心理を考えれば、明るく楽しい感じを出すことは超重要です。

そして、そのためにも表情を明るくするのが非常に効果的です。 

その明るい感じは、面接途中ではなく、最初に出すのが効果的です。

面接の最初に何をするのか。

挨拶です。

挨拶で、楽しい感じを出すべきです。

感じの良いはっきりした挨拶は効果的です。

そして、はっきりした挨拶は自分にもいい。

どうして自分にも良いか。

面接前の緊張を打ち破るきっかけになってくれるからです。

面接前は緊張して「何を話せばいいだろう」と色々考え、「うまくしゃべれないんじゃないか」と不安になります。

そんなときは、最初の挨拶で短くはっきりと何と言うかだけ頭に入れて、それを実行に移しましょう。

予定通りしっかりしゃべれた。

この簡単なステップを踏むだけで、ちょっとした達成感を感じることができます。

面接の緊張感にはかなり有効です。

「まずは挨拶をしっかりやることだけに集中しよう」

このような挨拶だけに集中するという考えは、これまでの面接での緊張に対処するのに大変役立ちました。

あれこれ考えてもしょうがありません。

面接でうまいことやってくれるのは、今の悩める自分ではなく、当日の面接本番に臨む自分という別人格です。

その別人への贈り物にはとびっきりの良い挨拶だけ渡せばよく、直前にあれこれ事前指南をする必要はないのです。

*****

本記事では、面接で人を適切に判断するのは極めて難しい、という考えに基づいて面接への対処法を紹介しています。 

その総合記事が転職面接前に知るべき効果的な心理学の知識です。

本記事はそうした記事の1つです。

もちろん第一印象で全てが決まるとも思えません。本記事で紹介されていたことを全部しっかり実践しても面接に落ちることはいくらでもありえます。ただ、ちょっとしたことで他の応募者と差がつくかもしれません。私ならちょっとした差を簡単なことでつけられるなら、なるべく多く実践したいと思っています。

もちろん、この記事の作戦を実施するかは応募者自らが自由に決めるべきです。「使えそうだな」と思ったら、ぜひ実践してみてください。

転職エージェントとの最初の相談の面談で実践してみるのもよい練習になると思います。

多くの転職エージェントと練習して転職エージェントによい印象を与えられるようにしましょう。無料の訓練です。

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