企業内弁護士のデメリット・メリットを現役インハウスが語る

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私は法律事務所と会社両方で勤務したことがあります。

法律事務所にも会社にも法務の知り合いがいます。

法務専門の転職エージェントともよく話します。

こうした経験をふまえて「企業内弁護士のデメリットとメリット」を書いてみました。

目次

1 企業内弁護士のデメリットはこれだ

デメリットの中核は、「会社員」であることから由来します。

このデメリットをふまえ、新人弁護士のおすすめ就職先は法律事務所であるとこのブログでは説明しています。

せっかく弁護士になってもいきなりインハウスローヤーになると「会社員」にしかなれないからです。 

本記事の想定読者は、主に法律事務所勤務の弁護士です。

司法修習生や将来インハウスローヤーに興味のある学生も含まれます。

なので以下デメリットとメリットは、法律事務所を比較対象としています。


① 会社では法務スキルが評価されにくい

職場によりますが、法律事務所に比べると、会社では法律知識が格段に要求されません。

大企業の法務部では法律知識や法律実務処理能力は評価されない。そんなところもあるはずです。

弁護士として超絶業務ができる人が会社に入っても、宝の持ち腐れになります。

難しい法律問題は外部の弁護士に投げてしまいます。自分で調査して考えて社内で報告するよりも、外部の弁護士に投げて「弁護士はこういっています」と社内で報告した方が評価されます。

法律知識を使った問題解決能力が高くても給料は上がらないし、差もつきません。 

教科書は読まない、判例も調べない、条文もほぼ見ない。それでOK。むしろそれがスタンダード。

激務の法律事務所からインハウスローヤーになった人は、新卒から10年法務部にいる生え抜き社員が「大したことは何もしていないのに偉そう」なのを見て、呆れているわけです。

この環境は、法務スキルを伸ばしていこうという真面目な法務パーソンのやる気を大いに削ぎ落とします。

経済学の父、アダム・スミスはこう言います。

ある種の労働に人並はずれた技能と創意工夫が必要な場合には、そうした能力をもつ人は尊敬され、その人の生産物も、費やした時間以上に高く評価されるのが自然である。

(アダム・スミス、山岡洋一訳『国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)』(日本経済新聞出版社、2007年3月)50ページ)

他の人にない高い技能があれば評価されるのが「自然」であると。

大企業の中では高い技能よりも年次が評価されるので、不自然に感じます。

こうした能力は長期間にわたって努力しなければ獲得できないのが普通であり、その生産物が高く評価されていても、能力の獲得に要する時間と努力に対する適正な報酬にすぎない場合いも多いとみられる。発達した社会では労働の厳しさや熟練度の違いは一般に、労働賃金で調整されている。

同上

高い技能は獲得に時間を要し、高い賃金で評価されるべきというのがアダム・スミスの説明です。

しかし、多くのサラリーマン弁護士を擁する大企業法務部にはそういう発想はないようです。

「弁護士資格がなく法務知識も極めて怪しい人達と給料が変わらない。私は弁護士で法律事務所で働いていたのに」

この不満は法律事務所から会社に移った人ではけっこうポピュラーな不満だと思います。

完全に会社で働くのが嫌だと言っているわけではありません。どの職場も完全ではないです。

「企業内弁護士の方が法律事務所より断然いいですよ。でもね、あの人達と一緒にされるのはね」

こういう風に部分的に不満を持つインハウスローヤーはそこそこいるはずです。

そんな風に弁護士が不満を持つ職場なら、非弁護士でない人は弁護士と同じ待遇になれてラッキーとも言えます。ただ、そんなぶつくさ不満を持っている人が同僚なのは嫌ですね。


② 社内出世は期待しにくい

企業内弁護士の将来は、とても不明確です。

これまでに例のない新しい人種だからです。 

古き良き年功序列型大企業の場合、弁護士資格は評価されず、よいサラリーマンとして良いキャリアパスをたどるのは難しい。

理由は簡単です。

外部から来た弁護士は異分子であり、大企業の人事体系が想定していない人種だからです。どう扱ってよいかわからないのです。

もちろん、転職後に会社内で「弁護士なんですか?!すごいですね!なんでうちなんかに転職したんですか??」と言われることは多々あります。
しかし、それだけです。社内の出世で役立つわけではありません。

日系大企業に企業内弁護士として転職した場合のありうる末路は、企業内弁護士(インハウスローヤー)のキャリアと末路 | 大手日系企業に行ったらこうなるで考えられる例を書きました。

③ 年収の伸びが限定的である

法務レベルがアップしても評価されません。

年収も大きくは増えません。

そして、会社員としての給料の伸びは限界があります。

それに対して、独立弁護士であれば稼ぎは青天井です。

「そんな簡単じゃない!」と開業弁護士から叱られそうですが、サラリーマン法務部員は、基本的に仕事に応じて年収を上げられません。

④ ゆるま湯環境→成長できず将来が不安、ボンクラ集団に囲まれる

のんびりした法務部に行くと、ほぼ何もせずにぼーっとしているだけで安定した給料が毎月もらえます。

「いいことじゃん!」と言われそうですが、必ずしもそう思う人ばかりではありません。

「修習同期はバリバリ働いているのに、私はここで一体何をやっているんだろう」と不安になります。

しかし周りを見渡すと、大企業の本社管理部門社員として誇りを持った方々がたくさんおられます。

低能な人が特に努力もせず偉そうにしている。

これはかなりイライラさせられます。

⑤ 税金をばっちり取られる

法律事務所での個人事業主から会社員になって「税金すごい取られるやん・・」と気づきました。

サラリーマン税金訴訟を起こしたくなる気持ちがわかりました。

青色申告にして、様々な経費を計上する。そういうことは全くできません。取られるがままです。

⑥ 英語を使うことが期待されている(苦手な人には辛い)

法務部がある企業は大企業が多く、海外展開等英語に絡むことは非常に多いです。

司法試験で学んだことはほぼ使わず、海外の法制度を調べたりする機会が出てきます。

司法試験合格の取り柄があまり発揮されません。

また、英語が嫌いな人も多いでしょう。

法律ばかり勉強した人は以下の条文を読むと違和感を感じるはずです。

民事訴訟規則47条。

「(書類の送付)
第四十七条 直送(当事者の相手方に対する直接の送付をいう。以下同じ。)その他の送付は、送付すべき書類の写しの交付又はその書類のファクシミリを利用しての送信によってする。
2 裁判所が当事者その他の関係人に対し送付すべき書類の送付に関する事務は、裁判所書記官が取り扱う。」

なぜ違和感を感じるのか。

「ファクシミリ」というカタカナがあるからです。

法律家にとって横文字は相容れにくい。「争点効」みたいに漢字で完結する方に慣れている。

「パブリックフォーラム」とか出てきたら「なんて新鮮な響きだ!」となる。

そんな調子だから実務に出て「スキーム」とか言って得意げな顔はするものの、真剣に全て英語で業務をこなすのは多くの人にとって苦痛です。

もちろん、外資系企業に行けば海外に英語で報告したりしなければなりません。


* デメリットまとめ

法律専門家度が減少する、というのがデメリット概要です。

上記デメリットは大規模法務部ほどよくあてはまります。

外資系企業や小規模法務部にはあてはまるものが減ります。

2 企業内弁護士のメリットはこういったところだ

デメリットに比べるとメリットの紹介は文字数が少ないですが、いずれも一騎当千の威力あるメリットです。

私にはいずれも捨てがたい。

① 外部者ではなく内部者・仲間としてビジネスを支援できる

インハウスローヤーになるために面接で弁護士はみんなだいたいこういうことを言うんじゃないか、と思われる理由です。

実際、この理由は多くのインハウスローヤーから多大な支持を得ています。

私もこんな感じの志望理由を面接で言いました。

実際企業に移ってみてどうか。

この志望理由はけっこう実現できているかなあと思っています。

タイムチャージを気にせず柔軟に法律問題をどう解決するか話し合いが社内でできるので、法律事務所のときより格段にやりやすいですし、うまくできるとやりがいを感じる部分です。

また、法律事務所より資金力がありますので、その資金力や知名度を活かしたビジネスに自ら関われるのは魅力です。

海外出張好きには断然インハウスです。

② 安定した生活環境

長時間労働の法律事務所勤務の弁護士がインハウスローヤーに転身すると、劇的に労働時間が減ります。

多忙でなければ18時に帰社できます。

いつも午前になってから帰っていた人にとっては18時に帰れるのは衝撃です。

在宅勤務が進んで18時前に家で仕事を終えることも可能になっています。

法律事務所と違って、仕事時間が終わればあまり仕事のことを考えずにすみます。

③ 何もしなくても毎月お金(給料)がもらえる

自分のやったことに対する成果ではなく、「ただいるだけ」で給料がもらえます。

定期的に確実に給料がもらえるのは安定そのものです。

パートナーによく見られようとか、営業して案件取ってこないと、とか悩まなくていいんです。

④ 会社の金を動かせる

無能な法務部員でも、高いフィーの法律事務所の弁護士にあれこれ指示できます。

自分が有能と勘違いするにはよい環境です。

* メリットまとめ

上記インハウスローヤーのメリットをまとめると、法律事務所よりインハウスローヤーの方がまともな人間らしい生活が送れる、ということです。

3 企業内弁護士についての誤解

インハウスローヤーについての誤解が広がらないように一部解説。

① インハウスローヤーの方が儲からないとは限らない

インハウスローヤーでもたくさん稼いでいる人はいます。

具体例。

  • 30代でアマゾン 部下無しでも年収2500万円超
  • 上場企業の法務部長 年収1億円超

事務所維持経費をかけず、弁護士よりも安定した環境にいながらかなりの高給をもらうケースもあります。

上記いずれの高額案件も以下の記事中の転職エージェントから聞いたものです。


② 企業にいればビジネスに根差した専門知識が身に着く?

そんなことはありません。

法律知識はやはり法律事務所でプレッシャーのかかる環境にいた方が身に付きます。

法律以外のビジネス知識が身につくか?

これもそんなことはありません。

会社にいるからといって自動的にビジネスの知識が身につくわけがないです。

MS-Japanが運営しているサイトのMS Agentでは以下のとおり「弁護士としての専門性に加えて総合的なビジネススキルや経営に携わる経験を積みたいなら「インハウスローヤー」をお勧め」と言っています。

しかし、この推奨は全く的を得ていません。

Q ファーストキャリアは法律事務所と企業(インハウスローヤー)のどちらが良いのでしょうか。

A 将来のキャリアプランや就職において、年収、ワークライフバランス、業務内容のどれを重視するのかによって、優先すべき選択が変わります。
業務内容で比較すると、弁護士としての専門性を高めたいなら「法律事務所」、弁護士としての専門性に加えて総合的なビジネススキルや経営に携わる経験を積みたいなら「インハウスローヤー」をお勧め致します。その他の要素としては、早い段階で高い年収を得たいのであれば「法律事務所」、ワークライフバランスを重視したいのであれば「インハウスローヤー」がお勧めです。

ファーストキャリアは法律事務所と企業(インハウスローヤー)のどちらが良いのでしょうか。 | 弁護士の転職FAQ 〜転職活動全般〜 | 弁護士の転職情報 | 弁護士の求人・転職はMS Agent by MS-JAPAN (jmsc.co.jp)

何も知らない人が思い込みでいいかげんなことを書いています。

インハウスローヤーが「総合的なビジネススキルや経営に携わる経験」を積めるわけないでしょ。そんな経験を積んだ弁護士がどこにいる。


③ 大企業には優秀なビジネスマンになれる環境(研修等)があるとは限らない

大企業の方が研修とかがしっかりしていていい、という意見があります。

しかし、研修なんて大したことやりません。

研修が大事だと思うなら、弁護士会の研修や有料の企業研修に行けばいいんです。

職場選びのポイントとして研修に高いウェイトを置くのは愚かなことです。

研修だけでなく、先輩社員等からしっかり色々教えてもらえるということもあまりありません。

また、研修に限らず、法務部では独自の損益管理をするはずがないので、「いかにもビジネス!」という経験は積めません。 

4 安定を求めるなら企業内弁護士

私は、安定した環境の方が好きなのでインハウスローヤーの方がいいなあと思っています。

「企業が安定なんて現代では妄想だ!」とすぐになんでも噛みつく人がいるのですが、会社は法律事務所に比べたら比較にならないくらい安定しています。

他方で、法務スキルを磨き、顧客を開拓して報酬をもらう、といったスタイルが好きな人には会社員より法律事務所の方が向いていると思います。

転職にあたっては、自分の主義に応じて転職エージェントを使い分けることをおすすめします。

法務の転職エージェントでおすすめしているのが弁護士ドットコムキャリアです。 

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弁護士ドットコムキャリアの評判 | 転職相談体験談 | 転職キャリアルール (career-rule.com)

弁護士ドットコムキャリアの口コミ・評判を検証した記事はこちら↓

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