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上手な反論の仕方を偉大な天才から学ぶ | アインシュタインやファインマンのテクニック

上手な反論の仕方 ファインマン

リチャード P. ファインマン

どうしたら他人の主張が間違っていることを上手に指摘できるのか。

本記事では、天才物理学者である、リチャード・ファインマンとアインシュタインが活用していた他者の主張を切り崩す方法を紹介します。

それは「具体的な例にあてはめて考えること」です。

方法は非常にシンプルであり、物理を知っているか関係なく仕事でも使えます。

 

単に「間違っている」と指摘すれば、相手はムキになる。

「間違っている。理由はこうだから。」と言っても、相手は「それは違う」と再反論してくる。

 

相手が素直にこっちのことを聞いてくれればいいですが、そんな心の広い人はあまりいません。

人は、自分の思い込みを否定されるのは苦痛であり、自らの心地のよい世界を守るために必死になって防戦します。

 

しかし、相手の主張や考えが誤りであったり、自分の主張の方がよいアイデアであるならば、相手に相手の主張の欠点を認識してもらう必要があります。

 

本記事で紹介したテクニックを使って議論上手になりましょう。

 

 

1 ファインマンの他人の理論の正しさの判断方法

名高い物理学者であるリチャード P. ファインマンは、自伝の中で他人が説く理論が正しいかどうか判断する方法を紹介しています。

僕に誰かが何かを説明してくれている間、今で理論の正否を知るのに使っている、なかなか便利な「策略」があるのだ。

(リチャード P. ファインマン『ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉 (岩波現代文庫)』(岩波書店、2000年1月)136ページ)

相手の理屈を正しく評価するのは難しいことですが、どんな「策略」を使ってファインマンは他人の理論を判断していたのか。

それは自分の頭の中で、例を作りあげていくことだ。

(同上) 

相手の言葉を言葉のまま受け取らず、その言葉を基に頭の中で例を作っていくのがその「策略」だということです。

ファインマンによるその具体的な説明は次のとおりです。

例えば数学の連中が何かすばらしい定理でも見つけて、すっかり有頂天になっているものとする。この定理の条件を彼らが僕に説明してくれている間、僕はその条件全部に当てはまるような、何ものかを具体的に頭の中でだんだんと作りあげていくのだ。つまりまず一つの集合(例えばボール 一個) から始め、次に分離するとボール二個になる。そして条件がつけ加えられていくごとに、このボール はだんだん色が変り、毛が生えという調子で僕の頭の中で成長していく。そしてついに彼らが定理を述べると、これが僕の頭の中の緑色の毛だらけのボールには全然正しく当てはまらない。そこで僕は「間違い!」と叫ぶわけだ。

(同上)

上記具体例は、理解がなかなか難しいのですが、 ポイントは「条件全部に当てはまるような、何ものかを具体的に頭の中でだんだんと作りあげていく」ということだと思います。

 

相手の理論が全て当てはまると仮定して具体的な例を作っていくということです。

新型コロナウィルス感染症対策で、他人の主張を判断する際に、相手が言う理屈を実際に全て実施したら「こういう帰結に至ってこんな問題が出るではないか」と問題点をあぶりだすようなことかもしれません。

 

2 アインシュタインも例を使って反論していた

 

ファインマンは知らないとしても、アインシュタインは多くの人が知っています。

伝記の中に、アインシュタインが他人の理論を攻撃する際にいくつもの「例」を繰り出していたというシーンが出てきます。

つまり、「あなたの理論はこうだからおかしい」と主張するのではなく、「あなたの理論によれば、こういう場合に破綻するのではないか」と指摘していたのです。

ただ、その例は、実際には目で見えないので、アインシュタインの場合は「思考実験」と表現されています。

アインシュタインは量子力学の問題点を指摘するため、「こういう場合は成り立たない」と思考実験の例を投げかけていたのだそうです。

アインシュタインは会議中そして非公式な議論でも、量子力学が現実の完全な記述ではないことを示すように工夫された賢明な思考実験を投げ続けた。彼は仮想的な仕掛けを用いてどのように運動している粒子の全ての性質を少なくとも原理的に確実に測定できるかを示そうとした。
たとえばアインシュタインの思考実験の一つはスクリーンにあけたスリットを通り抜ける電子ビームを考えて、電子が写真乾板にぶつかったときに電子の位置を記録するものだった。位置と運動量の両方を理論上正確に知ることができることを示すために、スリットを瞬時に開けたり閉じたりするシャッターのような色々な仕掛けがアインシュタインの独創的な努力によって提示された。

(ウォルター・アイザックソン『アインシュタイン その生涯と宇宙 下』(武田ランダムハウスジャパン、2011年)124ページ)

上記を読めば、アインシュタインが「スクリーン」や「電子ビーム」「写真乾板」「スリット」「シャッター」といった日常にあるような例を用いて思考実験をしているのが読み取れます。

現実には実施できない実験や例を頭の中で作り上げ、それを活用して他者の理論に挑戦していたのです。

アインシュタインが偉大だったのは、抽象的な言葉で説明するのではなく、こうした例を多数繰り出せたことです。

このアインシュタインによる挑戦を受けた学者達とのやりとりの帰結も書かれています。

「アインシュタインは朝食のたびにこのような提案をもってきた」とハイゼンベルクは回想している。
……彼らはいつも会議場へ一緒に向かうが、その途中でもアインシュタインの問題を論破するために議論した。「ほとんどの場合、夕食時までにアインシュタインの思考実験が不確定性原理と矛盾していないことを示すことができた」とハイゼンベルクは懐古し、アインシュタインは負けを渋々認めた。「しかし次の朝、彼は前よりももっと複雑な思考実験をたずさえて朝食にやってくる」。そして夕食時までにその間違いが示された。
アインシュタインからの問題をボーアが打ち返すことを重ねて、ボーアはどの場合も不確定性原理がどのように運動している電子についての知りうる情報量を制限しているかを示すことができた。

(同上)

アインシュタインが「この場合はどうなる?」と投げかけて、それに対して「うーん。その場合は、こうなるね。なぜなら」と返すことで理論を確かにしていったようです。 

 

3 ハーバード流交渉術とも整合的である

ハーバード流交渉術 必ず「望む結果」を引き出せる! (三笠書房 電子書籍)

ハーバード流交渉術 必ず「望む結果」を引き出せる! (三笠書房 電子書籍)

上記の書籍等の「ハーバード流交渉術」として知られる交渉術には、以下4つの原則が登場します。 

  1. 人:人と問題を切り離す
  2. 利益:「条件や立場」ではなく「利益」に注目する
  3. 選択肢:お互いの利益に配慮した複数の選択肢を考える
  4. 基準:客観的基準にもとづく解決にこだわる

 

ファインマンやアインシュタインが用いた「例」を使っての反論は、上記4つの原則を巧みに用いています。

 

(1) 人:人と問題を切り離す

「君の意見はおかしい」と言えば、「君はバカだね」ととられかねません。

そうではなく、相手の意見を用いたらどうなるだろう?と具体例を考えることで、その例がうまくいくかどうかに焦点を合わせることができます。

 

(2) 利益:「条件や立場」ではなく「利益」に注目する

その用いる例が相手にも受け入れられる客観中立的なものであるならば、相手はその例を使うことを否定しません。

その例が、その理論のあてはめに適切であるならば、相手もその例の中で自分の理論がうまく機能するという「利益」に注目するはずです。

 

(3) 選択肢:お互いの利益に配慮した複数の選択肢を考える

これはファインマンのテクニックから直接は見いだせないかもしれません。

ただ、アインシュタインのように別の例を考えたり、例に合うように理論を修正したりすることができるため、交渉の中では良い具体例を使うのは悪くありません。

 

(4) 基準:客観的基準にもとづく解決にこだわる

「私の意見は正しい。あなたの意見は間違っている」という対立構造になると、歩み寄りができずうまくいきません。

交渉で議論すべきは、どちらが正しいかではなく、解決基準であるとはハーバード流交渉術に書かれていることです。

ファインマンの例を用いるテクニックは、具体例を両者間の共通の客観的基準として用いるものといえるでしょう。

 

4 契約書の文言修正交渉で使ってみた

契約書のやりとりでは、相手方の契約書案を否定する場面があります。

その際に「この条文はこうするべきだ。なぜなら」と理屈を書くと、きちんとした相手なら反論を書いてきます。

(きちんとしてない相手は、理由も書かずにただ自分の取りたい条文を書いてきます。)

 

抽象的反論合戦になると、どっちが正しいのかよくわかりません。

裁判でもないので判定する人がいない。

 

その際に、適切な例をあげられると役に立ちます。

「こうこうこういう事態になったときに、貴社の条文によるとこういう帰結になりますよね?それってこういう不都合がありますよね?」と指摘するのです。

その「例」が相手に否定できないものであればあるほど効果的です。

 

あるコンサルティング会社との業務委託契約の例。

私が「この条文は問題です」と社内で事業部門の人に指摘しました。

契約書を直したがらない事業部門の人は「何が問題なんですか?」と不満そう。

 

言い方を変えて「この条文を読むと、コンサル会社の人が本プロジェクトのために出張して、夜に飲み屋に繰り出して、そこで他の客に喧嘩をふっかけて怪我したら、当社がその治療費を負担することになりますよね?それっておかしくないですか?」と説明しました。

そうしたら、「それはおかしいね」と賛同してもらえました。

 

ストーリーテリングは、人を動かすのに有益な手法ですが、「例」を物語仕立てにするのも効果的かもしれません。

 

契約書や理論をそのまま読むよりも実例の方がはるかにわかりやすい。

 

5 難しいが習熟する価値があるテクニック

このファインマンやアインシュタインが使っていた「例を用いる」議論の仕方は、使い手が少ないです。

なぜか?

おそらく、面倒だから。

直接的ではないですからね。

 

相手の意見がおかしいと思ったら、人は真っ向から「違う」と言いたがります。

そっちの方が早く、楽だからです。

 

「君の言うことを考慮して、こういうケースではどうかな」と回り道をするのは、かったるい回り道のように感じられるのです。

 

また、例を用いる反論は、シンプルですが、意外に難しいです。頭を使う。

相手にわかりやすく、しかも相手の理論をあてはめるのに適切で、相手に受け入れてもらえる例を創造しなければなりません。

これが難しい。

 

つまり、この反論テクニックは、実践するのが面倒で、難しいのです。

この点、アインシュタインは「工夫された賢明な思考実験を投げ続けた」というのですから、思考のスタミナが並大抵ではなかったと思われます。

その反論方法がいかに大変でも、それが効果があると知っていたから思考スタミナをフルに活用してたくさんの例を繰り出すことができた。

 

この「例を用いた反論」は、頭を使って大変であるが、効果があります。

相手を直接的に否定せずにすみ、相手に受け入れられやすいのは大きなメリットです。

 

慣れないとなかなかうまくいかないですが、日々例を作って議論を組み立てることを意識して練習すれば、次第にうまくなり、ファインマンやアインシュタインに近づくことができるはずです。

 

このテクニックは、仕事で相手とよい議論をするために役立ちますので、ぜひ習熟したいものです。

 

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