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なぜ弁護士報酬は高いかを行動経済学から考える

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弁護士報酬が高いと感じる心理を行動経済学から読み解く 

弁護士報酬が高い。そう感じるのはなぜなのでしょうか。

100万円でも1億円でも、クライアントが「それに見合った金額だった」と思うなら、「高い」という不満は出にくいはずです。

 

請求する側の弁護士からしても、クライアントの心理状況を知ることは大切です。

なぜなら、クライアントの報酬への感じ方をうまく操作すれば、より高い報酬を得ながら、より高い満足度を与えられるからです。

 

 

是非多くの人に弁護士報酬リテラシーを高めてほしいと思います。

 

(2019年10月14日改訂)

 

1 結論としてのまとめ

弁護士がクライアントに報酬を請求するにあたっては、いかに労力をかけたかをクライアントに示すべきです。見かけだけでも、やった感を出すことが大事です。

 

反対にクライアント側は、弁護士が示す「やった感」を評価するのではなく、支払う報酬によって得られる価値をきちんと評価しなければなりません。

 

無能/低能な弁護士が、クライアントから高額な報酬を得てえらそうにしている状況は改善されてほしいと思っています。きちんと仕事をするよい弁護士に適切な報酬が支払われるようになるには弁護士の説明とクライアントの理解の両面が必要です。

 

 

2 行動経済学のおすすめ書籍ーダン・アリエリー&ジェフ・クライスラー『アリエリー教授の「行動経済学」入門―お金編―』(早川書房、2018年)

最近のヒット書籍です。この本に基づいてこの記事を書きました。 

 

 どんな本かというと、以下のように著者が説明しています。 

この本は「金融リテラシー」を高めたり、お財布を開くたびになにをすべきかを指示したりする本ではない。それより、お金についてどんなまちがいを犯しやすいか、またなにより、なぜそういうまちがいをしてしまうのかを考えたい。そうすれば、次にお金に関する決定を下すとき、どんな要因が作用しているかを理解したうえで、よりよい選択ができるだろう。少なくとも、よりよい情報をもとに決定を下せるはずだ。

 

弁護士に報酬を支払うクライアントは、この本を読み、 次のようのことを考えるべきでしょう。

「弁護士に支払う報酬についてどんなまちがいを犯しやすいか、またなにより、なぜどうしようもない弁護士に割高な報酬を支払ってしまうのか」。

 

そうすれば、「次に報酬をふまえて委任等の弁護士に関する決定を下すとき、どんな要因が作用しているかを理解したうえで、よりよい選択ができるだろう。少なくとも、よりよい情報をもとに決定を下せるはず」です。

 

3 弁護士の仕事の評価は難しい

会社で弁護士に依頼している法務の人は、弁護士の評価をきちんとできているのでしょうか。

 

私の知っている限り、多くの人は「自分はちゃんと弁護士を評価できている」と考えているようです。

 

民法を含め実体法をほとんど勉強しておらず、弁護士実務もよくわからない会社員が弁護士業務を理解しているとは私には信じがたく、評価もそんなにうまくできるのだろうかと思います。

 

 

メールで「承知しました」と返信をするスピードが早いだけで価値ある仕事をしていることにはならないでしょう。

 

人は、誰しも「自分は平均以上」と思う性質があります。

法務部にしばらくいれば弁護士の評価もできる、とそのうち思う(勘違いする)ようになります。

 

勘違いでダメ外部弁護士を起用して高い報酬を支払っているとすれば、その起用判断は会社に損害を与えています。

かかる費用を考えれば弁護士起用は慎重になってしかるべきです。 

 

某外資系金融機関の法務部長(法律事務所勤務経験も長い)は弁護士の評価の難しさについてこう語っていました。 

  • 「どの弁護士がいいかは本当にわからない」
  • 「日経の評価もチェンバースも信用できない」

 

と言っておられるのを聞いたことがあります。

 

私はこの意見に賛同です。法律事務所で働いていても、他の弁護士の仕事はわからないことが多く、評価も割れることがあります。

 

4 本来の対価性ある弁護士のスキルにはお金を支払いたくない

弁護士の仕事の評価は難しい。

でも、報酬を支払う以上、報酬の対価となるのは、クライアントが何を得られるかという価値です。

その価値を評価しなければなりません。

 

しかし困ったことに、人はその価値にお金を支払いたくないと感じるようです。 

問題は、知識や経験に裏打ちされたスキルに報いることへの抵抗感にある。スキルを身につけ、磨きをかけるのにかかった歳月を考慮し、支払う金額に織り込むことに抵抗を感じる。

 

弁護士の知見を得たいがために依頼をするけれども、弁護士から得た意見等の成果物を考えると、高額な請求書を見て次のように思ってしまう事態に陥ります。 

私たちの目には、大して難しくなさそうな仕事に大金を払っているようにしか見えない

 

5 人は「がんばった感」にお金を支払いたがる

ではどうしたら人は納得して支払うのか。 

生産のコストや、走り回る人々、費やされた労力が目に見えるとき、私たちはより高い金額を支払うことをいとわない。労力のかかるものはそうでないものに比べて価値が高い、と暗に決めつける。支払い意思額の心理を駆り立てる要因は、客観的な労力よりは、見かけの労力なのだ。
これは合理的だろうか?ノー。これは私たちの価値認識をゆがめているか。イエス。これはよく起こることなのか。もちろんだ。
……私たちは多大な労力が費やされたことを知らなければ、ものごとを高く評価しないのだ。 

 

「~法律事務所の弁護士は深夜2時とかにメール送ってきた。よくやってくれた。」

 

とはある大企業(森ビルだった気がする)の社員が言っていた某法律事務所との仕事についての感想です。

 

「弁護士が夜遅くまで働いてすごい」

 

とはよく聞きますが、労力を評価する、という人の特性がよく現れています。

 

 

6 弁護士のタイムチャージはどうして不評なのか

この本は、この点についてこう考察しています。 

時間制報酬方式の法律事務所を考えてみよう。弁護士が悪くいわれる原因の一つは、仕事に費やされた労力が目に見えないことにある。ただ時間が記載された請求書が来るだけで、労力も、目に見える汗も、あの抜け目のないコンサルティング会社がアピールしたような活動も、なにも見えやしない。

 

労力が見えないのが人の認知にそぐわない、ということでしょう。

 

労力を見せるため(?)請求書に内訳を書く弁護士はたくさんいます。会議に1.5h、メールチェックに0.1hなど。

 

しかし、この内訳は労力を示すには不十分です。

 

「メールちょっと読むだけで1万円か!」

 

とクライアントの不満という火を油を注ぐ結果になります。

 

7 弁護士は労力を示せ、クライアントは人間の不合理性を認識せよ

弁護士がクライアントから気持ちよく報酬を支払ってもらうには、クライアントの認知を理解し、労力を示すことが肝要です。

請求をするときを含め、クライアントにはうまく「これだけがんばりました!」感を出すべきです。

  

クライアント側は、人の不合理性を理解し、きちんと合理的に対価として得るべき成果物それ自体を評価するように心がけないといけません。