鈴木祐『科学的な適職』(クロスメディアパブリッシング、2019年12月)
よく考えてより良い仕事探しをしたい人におすすめです。
おすすめ度:★★★★
1 『科学的な適職』の良いところ
本書の良いところは、ありきたりな転職のアドバイスにありがちな良くないアドバイスが排除されていることです。
「どこかにきっと天職があるから、それを見つけましょう。そうすると幸せになれます」という詐欺まがいの助言は展開していません。
そうではなく、よく考えてよりよい仕事を見つけることを推奨しています。
これは大変素晴らしい意見です。
仕事選びの多面性を説明し、慎重に検討することが大切であると述べ、そそっかしい判断を避けるよう力説しています。
なんとなく直感で仕事を選ぶべきだと考えている人にはよい視点を与える本です。
おすすめ。
2 『科学的な適職』の留意点
この本はとても良い本ですが、読んでいて以下の点が気になりました。留意点だと思います。
(1) 根拠となる文献の情報取り込みの問題
本書は、膨大な論文を引用しており、それを主張の裏づけとして使っています。
これはとても良いことです。
筆者の思いつきではなく、しっかりとした文献の根拠に基づいて論を組み立てているからです。
ただ、本書では元になった論文の内容をきちんと咀嚼して取り入れられているのか気になりました。
原書で膨大な分量の文献について、1~2行で「この論文は、こう結論づけています」と紹介するなど、「本当にそう言い切っていいの?」と気になりました。
本書の中で「楽な仕事は死亡率を2倍に高める」と書かれていますが、これは論理の飛躍があるように感じられました。
根拠となった論文であるHealth inequalities among British civil servants: the Whitehall II studyでは、地位の低い人の方が不健康であるとの調査結果が出たとAbstract部分に書かれています。
しかし、地位の低い人の方が仕事が楽とは限りません。
また、楽な仕事と死亡率の因果関係については本書は何も説明していません。
過激な主張をしている割には理由付けがほとんどありません。
たくさんの論文を根拠としている割には肝心なところの裏付けが欠けています。
この本に限ったことではないですが、本書を読む際には「本当にそう言えるのか?」と批判的に読むべきです。
(2) 総花的でここの箇所の突っ込みが弱く、具体性が欠けている
多くの文献をベースにしているのが特徴の本書ですが、あれこれ述べている一方で、それぞれの箇所の説得力には深みがありません。
その結果、自分が転職活動の時に何をすべきかの具体例の示し方が弱く感じます。
たとえば、本書は、企業で働くのなら仕事の自由度・裁量はとても重要だと述べたうえで、以下のようにアドバイスしています。
もしも「自分は企業で働くのだ」と決めた場合は、「労働時間はどこまで好きに選べるのか?」と「仕事のペースはどこまで社員の裁量にゆだねられるのか?」という2つのポイントだけは、必ずできる範囲でチェックしてください。
鈴木祐『科学的な適職』(クロスメディアパブリッシング、2019年12月) 107ページ
仕事の裁量が重要なのはわかった。
でも、上記のように太字にして線を引いて「チェックしてください」というけど、どうやってチェックしたらいいのか?面接で上記の内容をそのまま面接官に聞くのか。
面接官に聞いたって抽象的な答えが返ってきそうです。
どうやってチェックするのか。
これがポイントであるところ、これについては本書は何も述べていません。
3 『科学的な適職』の書評・レビュー まとめ
『科学的な適職』の膨大な参考文献の内容はきちんと引用されているか不明確であり、論の組み立ても不十分な可能性があります。
また、論点が多すぎるがゆえに、個々のパートの深みや具体性はあまりありません。
しかし、この本は適職を得るための視点を読み手に与えてくれます。論の組み立て方については積極的かつ批判的に読んで自分で考えながら読めているかを試す場になります。
具体的な手法が書かれていない部分もありますが、各論点で具体的にどうしたらいいかは個々人で対応すべき問題であり、この本に期待するのは過大な期待といえます。
留意点については厳しく思われるかもしれませんが、私はこの本はなんとなく転職を考える人にはeye openerとなり得る本ですので、注意深く読むのに良い本です。
賢明な転職を考えたい人にはおすすめ。
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