転職先の人事制度は?
無条件で新卒プロパーの方が有利な企業に中途で入るとロクなことがありません。
転職先の会社の人事制度は過去の遺物をそのままにしているか、人材採用をより精緻化させようとしているかは、中途入社組のキャリアの満足度に大きな影響を与えます。
(2020年10月11日改訂)
1 ただ会社にいるだけでデカい顔ができる旧態依然大企業のサラリーマン
多くの人は成長を望みます。
しかし、そうであっても実際に勉強や訓練の努力をする人はあまりいません。
私は司法試験の勉強をして法律事務所に入って社会人としてキャリアをスタートさせました。
勉強して司法試験の門を突破し、あれこれと学びながら成長しつつ仕事をしようと思ってきています。法曹の多くは、自分の学習努力によって職を得ようと考えたはずです。
大企業の会社員になって驚いたのは、「会社に食べさせてもらって当然」という発想が常識として従業員に染みついていることです。
自分のやりたいこと、成長したい分野などは、自分でどうにかするものではなく、会社が指定するものなのです。
多くの会社員が、語学研修や異動等、天から降ってくるものを、天井に口を開けて待っています。
会社がいいものを与えてくれれば満足し、そうでなければ愚痴をいいます。
自分では何も変わろうとしません。
20代前半で会社に入って10年以上いても大学生とほぼ業務レベルの変わらないサラリーマンは山ほどいます。
10年いても成長してないからです。
そんな人たちでも、肩書は著名企業の会社員として自分が有能と思っています。
周りも褒めます。
傲慢になって謙虚さを忘れて楽に組織にぶらさがりたい
そう思う人に安定大企業は本当に心からおすすめします。
特に法務は最高ですよ。
何も責任を負わずに作業だけやってればいいんです。
専門性?
何もしない人に身につくはずがありません。
そんなものは「大企業に在籍している」という外形だけでいいんです。
中身は問われません。
2 ダメサラリーマンを生む会社
ダメサラリーマンが不真面目なチンピラというわけではありません。
多くは素直であり、成長はしたいと思っています。
でも、自ら成長しようと意志を持つ存在にはなりません。
なぜなのか?
会社がそれを求めていないからです。
日本人が英語ができない理由と同じです。
使う必要がないからです。
これについて、インディゴブルーの柴田会長が、2019年8月19日の日経産業新聞朝刊で「時代にそぐわぬ人事制度」という非常に鋭い意見を述べていました。
会社組織の実態は次のようなお粗末なものであり、それは人事制度のせいであると言います。
硬直的で遅く、学習もチャレンジもしない。多様化したいが実態は同じような男性社員ばかり。女性や外国人の活用は進まない。この構造的な原因は人事制度にあることに気づくべきだ。
「硬直的で遅く、学習もチャレンジもしない。」
本当にそのとおりです。
無意味で当たり障りのないそれっぽい見た目のことだけを周りを気にしながらしていればいいんです。
チャレンジなんかしませんよ。
なぜそうなっているのか。
従来の人事制度が前提とする考え方が今の時代に合っていない。
このように柴田さんは述べます。
具体的にはどういうことか。
- 組織の階層・構造は変わらない
- 責任と権限は上位職に集中
- 上司が部下へ指示を出し、評価・育成をする
――この3つの考え方を守ろうとすればするほど組織は硬直的になり、遅くなり、学習もチャレンジもしなくなる。
これは硬直的な組織を適切に言い当てています。
小さななんでもありの組織から大企業に転職しようと思う人はこうしたことを気を付けねばなりません。
腐ったような人事が幅を利かせている可能性があるのです。
3 成長型組織になることを阻害する悪しき人事制度
柴田さんはいくつか具体的に問題ある制度を指摘しています。
(1) 格付け制度
1つが、評価・格付けの制度です。
組織の階層・構造が変わらない前提の代表格が格付けの制度だ。一人ひとりの能力の発展段階に応じた職能またはコンピテンシーによる格付け、仕事の役割責任の大きさに応じた格付け、またはその混合版と称する制度を導入している企業が多い。これが問題だ。
格付けは、あって当たり前。
そんな気がするのですが、どう問題なのでしょうか。
能力にしても役割責任にしても、格付けは自社内での相対的な話だ。しかも自社の業務遂行に求められるスキル、経験値も変化する。業務の社内への影響度合いも変化する。そうなると、社内の格付けと実際の業務における貢献度が必ずしも合わなくなる。これが、格付けは低いが熱心に働く社員たちの不満を生む。
この部分はちょっとわかりにくいです。
「専門家集団」たるはずの法務部の話をしましょう。
大企業の法務部では、法務の実務スキルが評価の対象となるべきですが、実際はそうなっていません。年次の方が重要なのです。
具体的な例でいいましょう。
以下2者を比べると、①の方が偉く、給料も高いのです。
①50代課長、人事・総務畑出身で法務に異動でやってきた。法律はほぼ知らない。経験もない。マネジメントスキルが高いわけではなく、自分の好きなやたら細かい作業だけを重視する。英語は全くできない。
②30代中ごろの法律事務所出身の弁護士。バイリンガル。日本法実務だけでなく、海外案件も積極的に取り組み、部員からも慕われる働き者。
②の方が法務部と会社にはるかに貢献しているという設定です。
しかし、誰も②の方が評価されるとは社内で思っていません。
なぜみんなそう思って不思議に思わないのか?
有能な人が評価されないのはおかしいと思わないのか?
思いません。誰も。
なぜなら、みんな「そういう会社だから」と思い込んでいるからです。
そう。そういう会社なのです。
(2) 何もしない偉い人
責任と権限が上位職に集中すると、顧客から遠い人に説明し、理解してもらう手間と時間が必要になる。上位者は全体像が感覚的にわからず、保身のためリスクをとろうとしない。これは顧客価値を損なう。
大企業にいっぱいいます。
自分は何もしない、説明資料を部下に作らせて、判断までさせる。
自分は「これで絶対にいいんだな」と保身の確認だけする。
パートナー弁護士でもこういう人はいますが。
こうした偉い人のOKをもらうために、信じられないくらい多くの人が社内調整に時間を費やしています。
賢い人の適切な判断を得るために調整をするのならいいのですが、そうではないのです。
(3) 最大の問題は「上司」
最大の問題は「上司なるもの」だ。
これは気になるコメントです。
どういうことでしょうか。
上司は部下を管理・育成し、部下の行動の責任も負う。これが従来の人事制度の考え方だが、今や最もそぐわない。
なんと。この当たり前すぎる制度が最大の問題とは。
なぜでしょうか。
これは、組織で上位に位置すれば部下よりも優れているという「幻想」に基づく。
なるほど。これは納得です。法律事務所でもあるあるです。
年次が上なら有能だというのは幻想です。
社内での経験値が高い方が優れているという前提は年々崩れ、管理者も自身でやることは多い。多くの上司たちは無理をして部下の指導、育成をしている。顧客価値を高める労力よりも人的管理に労力を割くことになり、組織のパフォーマンスは上がらない。
これも非常に納得です。本来やるべきことに力を注げていないわけですね。
4 転職するならダメ人事制度が常識としてはびこっている会社には気をつけろ
大企業は安泰で気楽なのですが、中の人が悪しき人事制度に浸りすぎてゆでガエルだらけになっている組織があります。
中途でそこに入ると、短期スパンでは問題ないですが、長期スパンで見ると、新卒プロパーでないがゆえに問題が生じてきます。
これは入社してしばらく在籍しないとわからない可能性があります。どういう組織なのか、非常によく考えねばなりません。
https://twitter.com/Nyanger_b/status/1180385524625723392